自分で選んだものなのに、他のひとが手にした別のものを見ると、途端にそちらの手のなかにあるものが欲しかった。手に入れた満足感が急速に萎む。
萎む、なんて柔らかすぎる。急に消えてしまう。
自分が欲しかったのはこっちではなくあっちだった! と天啓を得た気持ちになる。
そんなものありはしないのに。
幼い頃から何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返してきた。
きょうだいの買ったお菓子のほうがいい。
きょうだいの買ってもらった服がいい。
お年玉の袋はこっちじゃなくてそっちがいい。
食べたかったのはエビフライじゃなくてそっちのハンバーグ。
ランドセルはこの色じゃなくてクラスの子が使ってる色のほうがいい。
欲しかったノートは、ペンは、筆箱は、裁縫セットは……。
こんな髪型じゃなくてあの髪型がいい。
反省するはずなのに、その気持ちの前では反省の記憶なんて吹っ飛んでしまう。
気がつけば友達なんていなくて。
付き合いのある人からは私物をあまり見せられなくなって。
陰では浮気性、横恋慕のプロ、不倫するために生まれてきたと囁かれるようになっていた。
どうして最初の欲しいで我慢できないのか、他人の手にあるものがあんなにも何十倍もの魅力を放っているのかわからない。
ほんとうは。ほんとうは――欲しいと思ったもので満足できるにんげんでいたかったのに、また誰かの隣で幸せそうにしているひとを見ると、欲しくなってしまう。
#ないものねだり
3/27/2023, 4:19:54 AM