森瀬 まお

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「才能という名の翼があるのに、それで飛べないんじゃ、翼がないのとおんなじよ。」

僕は、三年前に他界した母にそう言われて育った。
確かに僕は他の人より絵が上手く描ける。
絵画コンクールでよく入賞していたし、文化祭の絵も任されることがあった。
すると、みんな僕に聞くんだ。
「この絵に、どんな思いを込めましたか」って。
でも、決まって僕はその絵の説明ができなかった。
だから、次第に絵に関する依頼は拒否するようになった。

そんなある日、僕は先生に職員室呼び出された。
「今年の文化祭の絵を頼めないかしら。」
先生は僕が職員室に入るなりそう言った。
「いやです。」
僕は真顔で断った。
先生は想定の範囲内という顔をしていた。
周りの先生からはあきれたような空気が感じられる。
その呆れが僕に対するものなのか、先生に対するものなのか・・・
どちらにしても依頼を引き受けるつもりはない。
先生は少し悲しそうに僕の目を見た。
「なんで、そんなに絵が上手いのに絵を描かないの」
「翼がないから」
「え?」

「僕は母に、
  才能という名の翼があるのに、それで飛べないんじゃ、翼がないのとおんなじよ
  って言われて育ってきたんです。僕は、作品の説明が上手くできません。それじゃ、作品は伝わらない。
──飛べない翼は、翼がないのとおんなじなんです。」
先生の目の色が、悲しさから驚きに変わった。
そして、先生は優しい目をして僕に言った。
「翼は単品じゃ飛べないよ。翼は鳥がいるから飛べるんだよ。
 才能もそれだけじゃ飛べないよ。誰かに助けてもらわなきゃ。飛べない翼は、飛べるように工夫すればいいんだよ。
──飛べない翼は、翼がないわけじゃない。」

その一言で僕の人生は大きく変わった。
──飛べない翼は、翼がないわけじゃない。











#飛べない翼

11/12/2022, 5:15:23 AM