それなりに混んでいたからだろう。
私がカバンを置いていったことには、誰も気づかなかったようだ。
カバンに入る大きさにするのは苦労したが、これで残りのパーツは一つ。
「さっむー。さすがに真冬にニットだけはキツい」
家に帰るとロングコートに手袋を付けて、用意していたカバンを持った。
先程と違う駅に歩いて向かう。
少し遠いが、やむを得ない。
相当歩いたはずだが、疲れている様子を見せる訳にはいかない。
駅のトイレで汗が引くのを待って、電車に乗った。
人は疎らだが、一車両に5.6人くらいいるようだった。
三両編成の小さな電車で、この先は7つほど駅がある。
今でこそ人は乗っているが、この先はどんどん田舎になっていき、後半は誰も乗っていないことが多い。
予想通り、一駅、二駅と通過していくうちに、車内の人はどんどん減っていった。
そして三つ目の駅を通過した時、車内に残っているのは私だけになった。
「次は、鈴城駅、鈴城駅」
ボソボソと呟くようなアナウンスが聞こえる。
そろそろお別れの時間だ。
「じゃあね」
私は膝の上のカバンを網棚の上に乗せて、駅を降りた。
私は電車で来た道を迂回する形で歩いて戻り出す。
カバンの中に入った首は電車に揺られて、私から離れていく。
まだ行ったこともない遠くの街へ。
手袋とコートは戻りがてら、橋の下に捨てておいた。
ニットだけになった体を擦りながら、のんびり歩いて、自宅を目指す。
一陣の風がひゅるりと吹いて、枯葉が舞っていった。
枯葉は地面に落ちる様子もなく、あっという間に見えないところまで飛んで行った。
2/28/2023, 2:01:41 PM