「ずっとこのまま、おんなじでいられたらって、そう思うけど、きっとつまらないよね。終わりがあるって分かってるから、この日々は輝くんだよ。」
高校3年生最後の演奏会が近づいていた。僕らはこの演奏会を終えたら、それぞれの道を歩む。工業高校らしく、卒業後は就職する人が多い。楽器とは無縁の人生を歩むようになる人もきっと多いだろう。
寂しいね、と誰かが言った。終わってしまうんだね。色々なことがあった。嫌なことだって、ううん、嫌なことの方が、本当は多かったかもしれない。
それでも終わりが近づけば、僕らは寂しいと思うのだ。楽器に込める息が、ひどく熱くなるのは、きっと気のせいではない。
「吹奏楽が、嫌いだったんだ。」
ふと、誰かが言った。しん、とみんなの楽器の音が止む。みんなの耳が、次の言葉に集中した。
「嫌いだった。皆一緒に、なんて、馬鹿げてると思ってた。でもね、あたし、今すごく寂しいよ、皆。終わってしまうのが、すごく寂しい。今になってやっと気づいたの。きっとこれから先、あたし吹奏楽をずっと忘れないでいるんだよ。人生の1つの大きな柱になる気がしてるの。」
俺も、僕も、私も、とみんなが相槌を打った。誰もが、これからの人生について考えていた。自分の人生で、吹奏楽はどういう意味合いを持つのだろう。
たゆたえども、沈まず。生きている限り、僕らの音は消えない。心を震わせて、伸びやかに、僕らは音を奏で、その音はきっと、自分を豊かにしてくれる。
誰かが、メロディを吹き始めた。伴奏が徐々に増えていく。美しい旋律だった。心のこもった、何よりも想い出に残る旋律。
ずっとこのまま、僕らの音は、消えない。
1/12/2024, 3:18:17 PM