「テレビを見るときは、部屋を明るくして離れてみてね」
「え、うん」
彼女が突然俺の隣に座り、声をかけてくる。
「基本的に、寝る時以外は明るくする方がいいの」
「そうだね」
「それにね、何事にも適切な距離っていうのがあるの」
「うん」
急に饒舌になった彼女に相槌を打つ。
「もちろん、距離を離してはいけ無いときもある」
「今みたいに?」
「そう」
俺の問いに、彼女は間髪を入れず答える。
そんな彼女の様子を見て、オレの心に悪魔がささやく。
ちょっと彼女に少し意地悪をしてみる
「でもさ、こういうときって暗いほうが雰囲気でないか?」
「!」
彼女が、お前マジか、という顔をする。
「それにさ。距離だって近すぎたら集中できないだろ」
「…集中できなくてもいい」
彼女が、唇を尖らせて拗ねる。
「駄目だよ。集中出来ないなら距離を取るよ」
「くっ。痛い所を…」
「でどうする?」
「集中するから、このまま」
そう言って彼女は俺の腕にしがみつく。
「じゃあそろそろ…」
それを聞いて彼女はビクッとする。
「どうしても見なきゃ駄目?」
「駄目です。罰ゲームなんだから。さて、電気を消すか」
「それは絶対にさせない」
彼女はしがみついている腕に、さらに力を込める
どうやら電気を消すのは諦めた方がいいらしい。
「分かった。じゃあ明るいままで」
彼女は、当然だ、と言わんばかりの顔で頷く
「じゃあ再生するぞ」
そう言って、俺はデッキに入ったDVDを再生する。
そして本編が始まり、彼女は恐怖に顔を歪ませる。
そう、俺たちが見ているのはホラーである。
そして彼女はホラーが大の苦手。
話が進むにつれ、俺の腕がどんどん締まっていく。
終わる頃には俺の胸に顔を埋めていた
もはや見ていないのだが、指摘するのは酷と言うものであろう。
「終わった?」
「終わったよ」
そう言って彼女を抱きしめる
俺たち二人にとって、いつもの風景。
世間の恋人たちもそうしているであろう、ありふれた光景。
俺たちは毎日、様々な試練を乗り越えて、心の距離を近づけていくのだ
12/2/2023, 9:50:17 AM