海月 時

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「女の子なんだから。」
聞き飽きた言葉。私を否定するこの言葉が大嫌いだ。

「ランドセルの色、何がいい?」
小学校入学前、両親とランドセルを買いに来た時だった。
「黒色がいい。」
私は目の前にある、黒いランドセルに目を奪われた。しかし、私の言葉を聞いて両親は戸惑った表情をした。
「黒色だと男の子みたいでしょ?貴方は女の子なんだから、赤色とか桃色にしなさい。」
貴方は変。そう言われた気がした。結局、ランドセルの色は、赤になった。

あの日から私は、自分の心に嘘をついてきた。黒色よりも赤色。格好良いよりも可愛い。こうして偽れば、世界に馴染めた。これは正しい事。そう思い込んでいた。

〈僕は、黒よりも赤が好き。赤ってリーダーって感じでかっこいいし、可愛いから好き。でも、これは世間からは認められなかった。それが辛かった。好きな事を好きだと言えない世界なんて、こっちから願い下げだ。〉
これは数日前に飛び降り自殺をした男子高校生が書いた遺書だ。私は、彼の飛び降りた後の姿を見た。元の形を残しておらず、真っ赤に染まっていた。私はきっと、その姿を忘れられない。

男は黒、女は赤。その偏見を強要し、自分がした言動を一切疑わない奴ら。うんざりだ。もう、辞めにしよう。自分を偽るのは疲れた。だから、ここに来た。
「屋上、初めて来たなー。」
風に耳を澄ませ、目を閉じた。きっと葬式では、皆黒い服を着て来るのだろう。私の好きな色。楽しみだ。
「でも、あの時見た赤は綺麗だったな。」
私は、誰かの記憶に残るようにと、飛び降りた。

6/21/2024, 3:15:36 PM