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誰もいない、静かな図書室。

友達と呼べるような人がいない自分にとっては、どんな場所よりも過ごしやすい場所だった。
本は特別好きではなかったが、暇つぶしに読むのはちょうどよく、次の授業までそこに入り浸っていた。
図書室がお気に入りの場所となるのは当然で、いつからか図書室に来るためだけに登校するようになった。

教室、進路、家、バイト、そして孤独。
嫌なことすべてを忘れることができる……。

そう思っていたのは、自分1人だけではなかった。



ある日、いつものようにお気に入りの場所へと向かうと
……いないはずの先客がいた。

誰も手に取らなさそうな分厚い本を読んでいたその人はちらりとこちらを見たのち、会釈した。
会話をする気はないようだったので、昨日の続きを読もうと小説コーナーへ向かった。

それからたまに、その人を見かけるようになった。
会っても会釈だけで、会話は無いが。
しかし、その頻度はだんだんと増してゆき、いつの間にかほぼ毎日来るようになった。気づけば会釈ではなく、声で挨拶をするようになっていた。

変わらず会話は無い。
それでも、もっと居心地が良くなった気がした。


あの人に会うために、学校に来るようになった。


雪がぼたぼたと落ちる冬。
寒くなると同時に、だんだんあの人は来なくなった。
忙しいのか、体調が悪いのか、ここに来るのが飽きたのか。理由は分からない。

名前、学年、クラス、部活、趣味、性格……
あの人のことを何も知らなかった自分は、ただ待つことしかできなかった。


空気の冷たい卒業式。
3年生と全く関わりのない自分にとっては、ただただ退屈でしかなかった。
ここに居るより、あの人と本を読みたい。

そんなことを考えながらふとステージに目をやると、
卒業証書を持った、知っている人がいた。


あの人だ。遠いけど、分かる。


寒くなると来なくなったのは、受験が近づいたから。
雪が降ると来なくなったのは、授業がないから。

異変の理由が一気に分かったのに、心はざわざわして仕方なかった。


もう、会えない。



桜舞う新学期。今日もあの人のことを考える。

話しかけていれば、仲良くなれただろうか。
別れの挨拶もできただろうか。
もしかしたら今も、連絡を取り合えていただろうか。

もう叶わないことを考えながら、
新しい教室に足を踏み入れた。



『寂しくて』

11/11/2025, 11:02:40 AM