風鈴。
あんなもので、この夏の暑さをしのげるわけもない。
見た目や音は綺麗だが、何の冷却装置もないんだから。
当時は、あんなんで涼が取れていたんだろうか。
それは羨ましい。
その当時に生きていた自分が羨ましい。
夏は嫌いじゃなかった。
カブトムシの季節だった。
市民プールは学校のプールより深さがあって、不安と冒険心が疼いた。
毎朝のラジオ体操は嫌だったけど、学校以外で会えるクラスメート達が新鮮だった。
すべて今は遠い昔。
夏は変わってしまった。
…いや、変わったのは自分の方か。
今も子供達はカブトムシを探し、市民プールで泳ぎ、ラジオ体操に通っているのだろうか。
いや、我が子達にはなかったな、そんな夏休み。
そして、風鈴なんて、もう何年も見ていない。
風鈴の音…案外、今聞いてみたら、心が涼んだりして。
その澄んだ音色。軽やかな佇まい。
そんな風情が満載だった、あの頃の夏。
チリリン、ってね。
物悲しく、夏の儚さでもある、風鈴の音。
今は、ガンガン働くエアコンと扇風機の音。
そして、時折鳴るスマホの着信音。
ピコリン、ってね。
7/12/2025, 11:39:19 PM