桜の葉が生い茂る川沿いでワンコの散歩をしていると、黒のタンクトップ黒の短パンでランニングする色黒の日本人と思しき男が前から走ってきた。
しなやかな筋肉を持つその男の腕には、アラビア語のような黒い文字の刺青が肩から肘まで一直線に描かれている。
川沿いの遊歩道を私たちに譲り、その男は車道の端へ。
男とすれ違いざま、ふわん、と石鹸の香が強く漂う。
えっ?
石鹸の香りを残し、その男はあっという間に去って行った。
その後も私とワンコはいつもの散歩コースを歩く。
川沿いを離れ、住宅街へ。
ワンコはハイテンションが落ち着き、今は私がゆっくり歩けるペースでトコトコ歩く。
後方から車のエンジン音がする。
道路の端へ避けると、また、あの石鹸がふわんと香る。
えっ!?
黒いハッチバックの運転席の窓は開いており、窓枠に肘が乗っていた。
刺青の腕が見える。
石鹸の香りが強く漂う。
ワンコは変わらず散歩を続ける。
刺青の男は、どこへ向かったのだろう。
あんなに石鹸を強く香らせて。
ワンコに引かれてその場を離れると石鹸の香りは空に溶けてなくなった。
それでも私は刺青の男の行き先が気になっている。
空に溶ける
5/20/2025, 12:03:57 PM