アルメリア

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〘伝えたい〙
 君に伝えたいことがまだたくさんあって、もう喉の奥から音も出かけていて、つい何度もこの部屋を訪れてしまう。窓から桜の入り込む清潔感のあるさっぱりとした、むしろ何も無い部屋。俺は床に座りこみ、話をした。
「今日はな……」
 ………、他に誰もいない部屋にはやけに声が響く。誰もいない、そう君はもういなかった。それは理解っていた。それでも俺は語った、今日何があって、どんなに可笑しかったか、どんなに悲しかったか、いつか一緒に行こう、なんて。知っている、君がここにいない理由さえも。俺は知らないふりをした。だって、まだ桜は散っていないから。


−−−全て習慣だ。
俺たちは家が隣同士の幼馴染でいつも一緒に遊んでた。楽しいことも悲しいことも喜びでさえ共有している俺たちは一心同体と言ったほうが正しかったかもしれない。けれど、ある日君だけが病気になって、普通が普通じゃなくなってしまった。何日かたって会わせてもらったとき、俺は戦慄した。ベッドに繋がれている君は俺の知っている子じゃなかった。顔色は白どころか青に近く、線の細いまるで幽霊みたいだった。思わず逃げてしまいそうだったけど、
「…◯◯…君……?」
そう悲しそうな声で呼ばれて我にかえった。俺の前にいるのはいつもの君だ。
「何かあった?」
いつも通りに聞きかえせたはずだ。それから君は泣きながら病気のことを話してくれた。現代では治療可能なものだが、如何せん発見段階が遅すぎたということ、医者はそれでも可能性があると励まし程度に憐れんでいたこと、両親に迷惑をかけてしまうということ。それと、
「私、きっと桜が散る頃には死んじゃってるんだ。」
縁起でもない。俺は一瞬怒鳴りそうになってやめた。君は諦めた顔をしていたから。生きていける俺には到底想像もできないことなんだろう。けれど
「あと、もう来なくていいよ。」
その一言だけは頂けなかった。だって俺らは運命共同体だ。いつだって一緒にある。流石に死後の世界まではついていていけないけど、それまでは傍にいさせて。俺が君の目となり耳となり伝えるから。今まで通りだから。お願い。そう言うと君は驚いたようにしてそれから俺が泣いてるのに気がついて「そこまで言うなら…」と許してくれた。死にゆく間際でのうのうと生きていってる人間を見るのなんてつらかったはずなのにね。ほんと、お人好しだよ。

 あれから、ずっと俺は君の部屋に通い続けた。毎日、毎日話すもんだから似たような話ばっかでつまんなかったかもだけど、笑ってくれた。何よりだった。むしろ君より、俺のほうが救われてたのかもしれない。1、2、3……年
、思ったより長い闘病生活だったね。けど、その分つらかったはずだ。安らかな眠りについていますように。

 
 冬が終わりに近づくと、君の言葉を思い出す。「私、きっと桜が散る頃には死んじゃってるんだ。」いいや、違う。君は戦い抜いて、頑張って生きたんだよ。それを合図に俺はあの部屋に向かうのだ。

2/12/2024, 3:29:04 PM