烏羽美空朗

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まさか、衣替えを先送りにしたせいで死にかけるとは。何が起きるのかわからないものだ。まぁ、九割位は昨晩の俺が感傷的になりすぎたせいなのだか。
寒くなり始めた時期の真夜中、半袖一枚で雨に数分濡れていれば、たとえ人生皆勤賞の健康な人間だって風邪をひくだろう。あぁ、昨晩の俺は本当に、馬鹿なことをしていた。
……本当に、死んだらどうするつもりだったんだ、俺は。

押し入れから引っ張り出した適当な服を何層にも着込み、そのまた上から掛け布団を巻いて、六畳の角で一人震え続ける。

暑くて、寒くて、苦しくて、眠たくて。しかし、目を閉じれば閉じたでぐるぐるピカピカとしたサイケデリックな世界に空いた大きな空洞に落ちていく感覚に襲われ、もうおかしくなってしまいそうだった。

こんな時に友達でもいれば、事情を説明して解熱鎮痛薬や消化に良い何かを買ってきて貰うこともできるのだろう。だが、あいにく俺は誕生以来一人も友達を作る気になれず、こうして一人、そこそこ幸せな人生を謳歌している。
……数年前まで、彼女はいた。友達はいないのに、何故だか彼女はいた。
色々特殊だったのだ。俺と彼女の出会いと関係と、そこにある感情は。

和気藹々と輪に混ざり、誰とでも遊べる彼らの関係を友達といえるのかは、俺にはわからない。あの時から俺は一人で折り鶴と遊んでいたから、やはりわからない。

友達。読んできた数多の本の中でその単語が出てきた。書いてきた数多の作品でその単語を使った。
しかし、俺は未だにその単語の意味がわからないようだ。

はっぐじょん、鼻の奥が痛くなる程のくしゃみをして、再び震えだす。

……あぁ、馬鹿なことをしたなぁ。
ぼやけた視界に苦笑を残し、俺は諦めて悪夢の空洞に落ちていった。

友達

10/25/2022, 1:06:00 PM