春風とともに
綺麗だな。
頭上の、満開の桜の花を眺めていたら。
突如、強い風が吹いて。
それは一瞬で、僕の全身をぶわっと呑み込んで。
かと思ったら、一瞬で去っていく。
咄嗟に目を瞑っていた僕が、目を開くと。
目の前には、さくらの花びらを手にした君がいて。
きょとんとしている僕に、君は。
「髪に着いてたよ、これ」
と、手にしていた、花びらを見せてくる。
でも、僕はというと、何だか信じられない気持ちで。
というのも、目の前の彼は、幼なじみで、僕の大切な人。
彼と一緒に過ごせるだけで、僕はいつだって幸せだった……のに。
去年の、丁度今頃。
君は、ボールを追いかけて車道に出てしまった子供を庇って亡くなってしまったんだ。
だから。
「な、なんで、君が、ここに?」
驚きを隠せない僕に、君はイタズラが成功して喜ぶ子供みたいに笑って。
「春風に乗って、お前に会いに来たんだよ」
なんて、彼の言葉と同時に、また風が吹く。
桜の花びらが舞う中、微笑む君が、僕の前に春を告げにやってきたのだった。
End
3/31/2025, 6:51:54 AM