No.33『18歳』
散文/掌編小説
卒業証書の入った筒を大切そうに抱えた少女を見掛け、そういえばもうそんな時期なんだなと、まるで他人事のように思う。いや、他人事のようじゃなくて他人事そのものか。最終学歴である高校を卒業してから、気づけばかなりの時が経過しているから。
高校時代、遅刻ギリギリで自転車を走らせた通学路。徒歩通学らしい彼女は、時折、何かを懐かしむかのように空を見上げる。三寒四温の寒い日に当たってしまった今日。溜め息をついたのだろうか。彼女の口から白い息が立ち昇る。
思い出すのは自分の卒業式じゃなく、大好きだった先輩の卒業式。自分の時より、先輩の時のほうが悲しかった。都会に行ってしまう先輩には、もう会えない。そんな気がして、でも必死で涙をこらえて笑ったっけ。
不意に彼女は、真上を見やった。きゅっと唇を噛み締めて。そんな彼女は、まるで「泣かないよ」とでも言っているかのようだった。
お題:泣かないよ
3/18/2023, 5:58:47 AM