ストック1

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ジムで筋トレをした帰り道、俺を呼ぶ声が聞こえた
どうやら異世界から俺の力を必要とする者が助けを求めているようだ
何を言っているかよく聞こえないが、俺の力が役に立つなら、いいだろう
力を貸してやる
さあ行こう、まだ見ぬ世界へ!
目の前が真っ白になったが、しばらくすると景色が見え始めた
俺は大きな魔法陣の上に立ち、周囲には魔道士らしき人々が立っていた
俺を喚び、召喚した人々だろう
リーダー格らしき魔道士が言う

「よくぞ我らの呼びかけに応えてくれた
お主を歓迎しよう」

一騎当千の力を持つ戦士を求む
そうして喚び出されたのが俺らしい
一騎当千か……実際のところ俺は何をすればいいのだろう
少しワクワクしながら聞くと、とんでもないことを言われた
自国に逆らう隣国を征服したい、と
てっきり勇者として魔王を倒すのだと期待した俺が、心底がっかりしたのは言うまでもない
こいつら、俺を戦争の道具にするつもりだな

「そなたが力を貸してくれれば、我らはそなたに最高の待遇でもって応えると約束しよう」

いかにも魅力的だろうと言わんばかりだが、正直この程度の文明レベルで俺の心を満足させるのは無理だろう
筋トレのためのジムも器具もプロテインもないのではないか?
それに、戦争などに手を貸す気はない
ハッキリと断ることにした

「残念じゃ
この手は使いたくはなかったが、もはや洗脳するしかあるまい」

リーダー格の魔道士と、他十数名が魔法を発動した
洗脳のための魔法だろう
だが……

「効かないな
俺に洗脳は通用せん」

何も起こらない
俺はなんともない

「なんじゃと
複数名で行う高位の洗脳魔法じゃぞ!?」

高位だかなんだか知らないが、そんなくだらん魔法など俺には無意味
効果などあるはずもないのだ
なぜなら

「俺は素晴らしい筋肉の持ち主だからだ
筋肉があれば、魔法など無力!
筋肉は人生のソリューションだ」

「き、筋肉で魔法が防げるものか!
貴様は一体何者じゃ!」

俺に魔法が効かなかったことを認められないらしい
なにか裏があるはずだと思考を巡らせている
バカめ、種も仕掛けもない
俺の世界に魔法はない
ゆえに魔法に対抗する方法もない
ならば答えは決まっている

「何者でもないさ、俺は
ただひとつ言えることは、筋肉は人生のソリューションだ」

「なんなんじゃそれはぁ!」

叫びながらリーダー格は指示を出し、魔道士たちが一斉に魔法を放とうとする
それに対し、俺は素早く拳骨で魔道士共を殴り飛ばし、ダウンさせた
残るはリーダー格のみ
やつは唖然としながらも、強い使命感を瞳に宿す

「こやつを放置すれば、我が国がどうなるかわかったものではない!
惜しいが、殺すしかあるまい」

勝手に喚んでおいて都合が悪ければ抹殺とは、つくづく自分勝手なやつだ
こんな国に協力しなくて正解だな

「跡形もなく消え去れ!
ダークカタストロフ!!」

凄まじい力を感じる
暗黒の雲が立ち込め、暗黒の雷が荒れ狂い、暗黒の炎がほとばしる
それらすべてが俺一人に降り注ぎ……

「フン!」

俺の鉄拳により即座に霧散した

「な、何が起きておる
最高位魔法じゃぞ
加減したとはいえ、本来は周囲数キロを壊滅させる魔法なんじゃぞ!!
なぜたったひとりの人間が、拳ひとつで消せるんじゃ!!」

リーダー格は奥の手を防がれて狼狽えまくっている
俺がなぜ防げたか、理解できないようだ
しかし非常に簡単なことなのだ

「言っただろう
筋肉は人生のソリューションだ」

「それはもうよいわ!
こうなれば相打ち覚悟でぶしっ!」

往生際の悪い爺さんだな
うざいので殴って黙らせてしまった
その後、俺は召喚された城の中で拳を用いて聞き込みをすると、戦争理由は強欲な王が自分と支持者の利益を得るためと知り、戦争に賛同する連中をあぶり出して根こそぎ拳をお見舞い
戦争に反対する勢力を拳ひとつで結集させ、反乱を起こさせた
さらに俺が国王を鉄拳制裁し、国の体制が変わったのだった

「お前はもはや王ではない
これからはひとりの人間として、人々のために生きろ」

俺はそんな感じでいいことを言ったのだが、王は終始怯えるだけで、俺の話など聞いていなかった

それから少しして、俺は戦争反対派や民から王になってほしいとの言葉をもらったが、拒否し、自分たちで建て直すよう促した
政治などわからない俺が王になっても、ろくなことにならないだろう
それに、ここは俺には少し退屈だ
元の世界に帰らねば
ジムでの筋トレが俺を待っている
俺を召喚してきたリーダー格の魔道士の爺さんに、拳をチラつかせながら丁寧に頼むと、帰還魔法の使用を快諾してくれたので、短い間だったが、この世界ともおさらばだ

「お元気で!」

皆が俺との別れを惜しんでくれている

「お前たちも元気でな
筋肉は人生のソリューションだ
そのことを忘れず筋トレに励み、いい国を作っていくんだぞ」

俺はそう言い残すと、光に包まれ、無事元の世界へ帰ることができたのだった
夢や幻のような、しかし確かに俺が体験した異世界での出来事は以上だ
最後にこれだけは言っておきたい
筋肉は人生のソリューションだ

6/27/2025, 10:43:46 AM