Werewolf

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【幸せに】*グロテスクな表現があります

 川に流されながら、せめて何か掴めないかと腕をめちゃくちゃに振り回す。腹が重くて仕方がない。何も石ころを詰めなくなっていいだろう。縫い付けられた傷が今更痛んできた。ああくそう、と一瞬思い浮かぶが、それよりも死ぬ、という恐怖が優った。やがて川の流れが早くなった。大きな岩に頭をぶつけて意識が朦朧とする。ああもう散々だ、ここ俺は終わりだ。
 それにしたって、そんなに酷いことをしたろうか。俺は狼なのだし、山羊を食うのは当たり前だ。子山羊だけになっているなんて、好都合じゃないか。子山羊が柵を開けるように努力もした。運と実力で勝ち取った成果なのに、どうして俺はこんな目に?

 気が付いたら腹が裂けていた。中身はすっかり空っぽで、足元の方で声がしてる。
「あれは皮にして売ってしまおう」
 そんな酷いことってあるかよ。俺は狼であっちは子供と老人だ。腹が減ってれば、食うのは当たり前だ。何がそんなに気に入らなかったろう。俺たちの中でも年老いたら置き去りにされるし、弱い子供は死んでいく。その手番がこいつらだっただけなのに。
 ああそうか。俺もそうだった。死にそうなほど飢えていた時に、幸運にも獲物を見つけた。あいつらも幸運だったのか。二人分の幸運でかかってくるなんて、随分な話だ。

 酷い火傷で持ち上がらない瞼を必死に持ち上げて、まだ死んじゃいないと主張する。口も喉もすっかり爛れて、ただの一言も声が出ない。
 子豚が森にいたら、そんなの格好の獲物だろう。柵にも囲まれていない、牧羊犬もいない、親豚もいない、人間も見ていない。ご馳走だ。奴らが作れるものなんてたかが知れているのだ。ああそうだ、たかが知れているはずだった。
 まさか火を起こすなんて思っていなかった。熱湯の鍋があるなんて思いもしなかった。くそう。



 これを読んでる、そう、そこのあんた、あんただよ。
 まぁ俺たちもわかってるんだよ。教訓ってやつだろ? 人間の悪いのを俺たちに置き換えたんだな。ああ分かるさ、今だからな。最近じゃこっちが幸せになる話もやってくれてるらしいじゃないか。嬉しいことだ。
 よかったら増やしてくれよ。俺たち狼が「そして末長く幸せに暮らしましたとさ」と締めてもらえる物語をさ。勝手に罪にされた当たり前の行為をさ、人間の方が勝手にやったことなんだって思うなら、どうか人間の方で幸せにしてくれ。

4/1/2026, 2:32:29 AM