あなたが、口紅を塗る姿が好きでした。
手鏡を見ながら、唇をなぞっているあの瞬間、あなたは誰よりも可愛くて。
その塗り直した綺麗な唇を乱してしまうのが嫌で、そっと、触れるようなキスしか出来なかったのを覚えています。
塗り直すのが面倒で、ほんのり色づく程度のリップクリームしか塗っていなかったわたしに、顔色が悪そうに見えると言って、色鮮やかな赤の口紅をつけてくれたことがありましたね。それがとても嬉しくて、口紅を買わずにいました。また、つけて欲しくて。いつもの通りの顔を見るごとに、あなたは不満がっていたけれど。
でも、あなたの瞳に映るわたしは、あなたの口紅の色で血色が良くなっていたでしょう?
あなたは、派手な色が好きだったから。
最近、薄い口紅をよくするようになりましたね。
理由を聞いた時、その薄い肌なじみの良い口紅より、赤くなった耳にわたしは気づいていたけれど、気づかないフリをしました。
しかし、わたしの為でも自分の為でもなく、わたしの知らない誰かの為に口紅を塗る仕草が、好きだったはずのあなたの仕草が、嫌いになってしまって。
でもあなたの傷ついた顔が見たくないから、勝手に消えるわたしを許してください。
あと、1つだけ。
あなたは口紅をたくさん持っていたでしょう。なので、あの時の口紅を一本、いただいていきます。もう、あなたには必要の無いものだと思うから。
ごめんなさい。幸せに。
11/7/2024, 3:18:36 PM