#今年の抱負
今年の抱負。
そんなもの、考えても意味が無い。
努力して、努力して、どう足掻いても、結局は全て
水の泡になり、俺の中の小さな夢が儚く消えるだけ
だから。
それが結果として出ているから。
それでも、もし、1つ上げるとしたなら……。
身体中に繋がっている針やら管やらから解放されて、
グラウンドを友達と走り回ることだ。
……まぁ、こんな世間では当たり前のことも実現
できないのが現状なのだけれど。
高1までは、お正月とかの行事ごとを大事に
する方だった。
年明けには、親戚の家に新年の挨拶回りに行き、
初詣にも行き、書き初めもした。
もちろん、その年の抱負も家族で発表し合うことも。
でも、高1の時の年末、事件に巻き込まれた。
父さんに大掃除に使う道具やらの買い物を頼まれて、
近くのスーパーに寄る。
ふと、自分の筆記用具が不足していることを思い出し
その類いのコーナーに向かおうと足を進めた時だった。
自分の胸の辺り――いや、心臓かもしれない。
背後にいた、同級生くらいの彼に刃物だと予想する
もので刺された。
刺された瞬間、何が起きたのか把握出来ていないまま
足は崩れ落ち、刺された部分が燃えるように熱くなり、
その場で、自分の血に塗れながら倒れた。
幸い、命は助かったものの、刺された場所が悪く、
かれこれ3年、ずっと個室の病室で医療機器に身体を
拘束されている。
刺した彼は、あそこで自殺しようとしたらしい。
彼の家の家庭環境が最悪で、彼自身もとても追い込ま
れてしまい、精神が尋常ではなかったため、近くにいた
いかにも幸せな家庭に生まれた子に見えた俺を刺して
しまったというわけだ。
俺は、自分の自由を失ったからといって、彼を恨んで
も、憎んでもいない。
人それぞれ抱えるものがあるように、
彼も、一般の人には抱えきれないものを持っていた
から。
普通の高校生が背負わなくていいものを、
溢れさせただけだから。
本当は、いつ溢れてもおかしくない状況なのに、
今まで、我慢して堪えて、俺に頼ってくれたから。
俺を刺したのだって、本心じゃない。
でも、あれは彼なりのsosのサインだったから。
俺を刺したことで、周りの大人は彼の抱えているもの
に気づくことができたから。
俺は、自分を多少犠牲にしたけれど、彼のsosを
受け取る事ができた自分を誇りに思うから。
そう言い聞かせて、どうにか3年もの間を、
やり過ごしてきた。
できるものなら、解放されたいんだよ
――でも、その夢は叶わないから。
それから2年後、病室にあの彼がやってきた。
まず、俺に頭を下げて深く謝罪し、感謝した。
そして、精神的に病んでいた俺に、ずっと待ち望んだ
希望を与えてくれた。
大学2年生、俺は4年間を経て、拘束から解放され、
サークルに入り、グラウンドを駆け回っている。
あの日、彼は、高度な医療技術と知識を身につけ、
病室にやってきたのだ。
その彼の技術や知識に救われて、今の俺がある。
1年の抱負なんて、考えずに諦めていたけれど、
今年は、彼の支えになること、にした。
これからは、お互い支え合って肩を取り合おうと
約束したから。
1/3/2025, 12:22:01 AM