すぎもと

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 周りを見回せば、皆その手に羅針盤を持っていた。勿論、私と仲良しの、芸大に行くという夢を抱いているあの子も。
「芸大に行くために、高2から絵を習うことにした!」
「あとここを塗り終われば、皆に追いつく!」
二人はそんな感じで言っているが、どちらもその羅針盤に導かれたのだろう。

 願わくば、私にも羅針盤を。
 それは、夢や目標があれば手に入るのだろうか。
 一応、私にもある。
「死にたい。もしくは、本音を伝えても怒らない友だちが欲しい。」
 でも、私には羅針盤がない。

 ────でも、分かったんだ。
 羅針盤を貰うために、することは夢や目標を持つなんてことではないのだ。
 夢を追うという覚悟と、突き進んでいく度胸。────これらこそ、本当の必要なものだったんだ。道理で私には無いわけだ。口だけで夢を語り、度胸も覚悟もない私には。
 そうだね。死ぬためにも、そのための勇気が必要だし、本音で話せる友だちにしても、自分が変わらなければそんな人来ないに決まっている。

 今日も、片手に羅針盤を握る皆に劣等感を抱きながら、何とか部室までたどり着いて、そのドアを開ける。
 そこには、壊れた羅針盤を机に置いた君がいて、私に手を振っていた。
「やっほー、待ってたよ。」
あぁ、この人は挫折したのだろうか。
「君が部活来るのが早いんだよ・・・」
それとも、目標を達成して、もう羅針盤は要らなくなったのだろうか。


#羅針盤

1/21/2025, 10:49:39 PM