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 緩やかな自殺をしている。

 格好つけた言い方だ、と咄嗟に反論を返す。自身をそうして殴りつける裏で、なるほど一理あるなと求道者ぶる自分もコッソリ存在する。それに気づくや否や早速殴り掛かる者がいる。

 混沌とした様相をした脳内会議は、何の実益も見込めないだろう。
 今自分が分かるのは精々体温を奪う床の温度くらいのもの。しかしながら正確な値は分からない。やはり無力なのだ。

 座り込んでどれほど経っただろうか。
 時間感覚はとうに消え失せている。今日が何曜日なのかも分からなければ、外を締め出したように薄暗い部屋では、今が昼か夜かも分からない。確認する為の一連の動作すら、今は世界一周の如く過酷なモノにしか思えなかった。
 只々、よっぽど素直な腹の臓器の鳴らすSOSを聞き流し続けている。

 自覚はしているのだ。このままでは何にもならないと。
 動かなければならないのだ。次を見据える為に。

 そうした「慰め」も、大した効果にはならなかった。私は私が思う以上に弱い人間であるらしい。

 ──輝くその瞳が。夢を語るその口が。興奮して赤らむその頬が。所在なさげに動き回るその腕が。私に向けた愛らしいその笑顔が。

 貴方の全てが、色濃く残って消えてくれない。

 貴方はとにかく旅好きだったから、空の上でも新たな旅を続けているのでしょう。御伽噺のように、幻の秘宝を探し続けているかもしれない。

 私は、貴方のようになりたい。強くて、真っ直ぐに進んでいけるような。
 貴方が旅を続けたように、私も新しい未来を、輝かしい未来を探すのだ。

 ……けれども、見つからない。私の“宝物”を示す新しい地図。
 ねえ、どこにいってしまったの。

 探さなくちゃ。
 探さなくちゃいけないのに。

4/7/2025, 1:46:30 AM