作家志望の高校生

Open App

あの子のために、僕は僕のできることを全部やった。
あの子が課題をしたくないと嘆いたから、勉強は嫌いだったけど、全部完璧になるまで勉強した。彼の課題を、代わりにやってあげられるように。
あの子が働きたくないと言ったから、多少無茶をしてでも給料のいい会社に就職した。彼を養ってあげられるように。
あの子はとてもかっこよくて、綺麗で、気だるさを孕んだあの目が誰彼構わず誑し込んでしまう。
誰かに彼を取られるのが怖くて、彼にも僕に依存してほしくて、僕は更に頑張った。
彼がお金が欲しいと言えば、欲しいだけ全部あげた。
生活が苦しくなってきたけど、僕は運が良かったみたいだ。
僕の顔は、そういう趣味の人達に受けが良かった。
適当にアプリで出会って、愛想笑いで相槌を打って、手を繋いで、一晩耐えるだけ。
それで、彼の笑顔が見られる。安いものだ。
おじさん達が僕に触る手も、僕を見る目も、全部気持ち悪かった。だけど、その後に彼の笑顔が見られればリセットされる。
僕にとって彼は唯一無二だった。
だから取られたくなくて、必死になっていた。
他の、彼のことを好きな誰より好きだと、お金も、自由も、他の誰より与えられると示したかった。彼の中で、価値を得たかった。
だけど、彼には僕以外があった。
彼の運命は、僕じゃ、なかった。
どこで出会ったのかも、何度逢瀬を重ねたのかも、僕は全部知らない。
僕が休日を返上して、知らない人に体を許してまで得たお金は、全部あいつとの逢瀬に使われていた。
これまで何ともなかった疲労と、吐き気と、倦怠感が一気に体を襲って、僕は姿勢を保つことさえできなかった。
彼さえいれば、家に帰って、彼の温もりさえあれば僕は十分だったのに。お金も物も、他なんて一切要らなかったのに。
机の上に置かれた合鍵と、雑に切り取られた走り書きのメモを前に、僕はもう何をする気力も沸かなかった。
彼が欲しかったのは、お金でも、自由に動ける時間でもなかった。
彼は、2人で水族館に、或いは映画館に出かけて、のんびりカフェでお茶を飲んで、夜には静かに抱きしめ合うような、そんな人が欲しかった。
僕は、それになれなかった。言ってくれれば、仕事なんて全部放り投げたし、その日の夜の予約だって全部断ったのに。
彼にとって必要だったのは、彼以外何も要らなかった僕じゃなかった。
彼がいないなら、もう全部いらない。お金も、仕事も、家も、命も、全部。

テーマ:何もいらない

4/21/2026, 9:02:15 AM