無音

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【41,お題:踊るように】

小さい頃に一度だけ人魚を見たことがある。

家族で海に来て、1人泳いでいた時だった

クルルル、キュイ!ピィィィ

イルカみたいな高い鳴き声に
なんだろうと思い、大きな岩の外側を覗き込んだ時

パシャン!ザパン!

「!......す、ごい...」

ピーコックグリーンのきらびやかな身体をもった、私と同い年くらいの見た目をした人魚の子供

何度も水面から飛び上がり、空中で身を踊らせるその姿は
生きていることを全力で楽しんでいるように見えた

ふと、その人魚と目があった。

ピィィィ?キュゥ

好奇心で満ち溢れた、2つの瞳が私を見据える
キョトンと首を傾げると、君も遊ぼうよ、と言うように手を差し出してきた

「私も、いいの?」

おもむろに手を取ると、グンと引っ張られ水中に身体が沈む

驚いて目を見開くと、見渡す限り広がる澄んだ青の景色と
いたずらっぽく笑う人魚の男の子が居た

にっと、こちらに向けてピースをすると
男の子は踊るように身を捻り、水中で何度も宙返りをしてみせた

すごいなぁ、と感心しながら見ていると
男の子は一度海底に届くほどに、深く深く潜っていき
すぐに身を翻して、勢いのままに海中から飛び出した

ザッバァァァッ!

軽く3mほど飛んだだろうか?
落下した勢いを泳いでいなし、海面から顔を出して得意気にこっちを見る姿に
私は思わず拍手を送った。と、

「結海~?帰るよ~どこにいるの?」

「あ、お母さんだ。私もう行くね」

じゃあね、と手を振る

彼はキュイ!と鳴き返し、真似して手を振ってくれた

少し歩いて、振り返ったときにはもう彼の姿はなかった。

私しか知らない、幼き頃の大切な一夏の思い出

9/7/2023, 12:02:06 PM