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『記憶』

「私の記憶が確かならば」という言葉で始まる料理番組が昔あった。

和の鉄人、洋の鉄人、中華の鉄人。
熟練した料理人たちの手捌きは、見ているだけでも面白かった。
即座にメニューが頭の中で組み立てられ、手順や調理時間が計算され、極力無駄を排して作業が進む。

様々な献立が詰め込まれている頭だけでなく、長年に渡って調理してきた体もまた料理を憶えているのだろう。

そう、数え切れないくらい繰り返してきたことは、体が記憶する。

思わず現実逃避してしまったが、目の前の問題は解決していない。
足元には、事切れた男の死体。
背後から襲いかかられたので、思わず反撃してしまった。正当防衛ではあるが、過剰防衛でもある。

ふう、とひとつ息をつく。
大丈夫、この後の処理方法もちゃんと記憶しているから。

3/26/2025, 8:02:21 AM