『モンシロチョウ』
小学生の時、理科の授業で習って以来聞く名前だ。
教室の後ろ、ロッカーの上、モンシロチョウの卵が虫かごに入れられ、観察できるように展示されていた。
モンシロチョウのたまごのようすを書いてみましょう。
「黄色っぽい」
「すごく小さい」
「白っぽい」
「お米より小さい」
「表面がつぶつぶしている」
表面がつぶつぶしている。
なぜかそこだけ鮮明に覚えている。
高校生になって、僕は獣医師を目指していた。
受験生の冬、追い込みの時期でかなり精神的にもきつい。
でも、生物の勉強だけは癒やしだった。
数学の勉強を一段落させ、生物の勉強にとりかかる。
「卵割」
「全割」
「盤割」
「表割」
表割。
その言葉の隣には、昆虫の卵の卵割の様式が描かれている。
表割。
あのとき見た、モンシロチョウの卵。
表面のつぶつぶ。
遠くなりかけていた記憶が、結びついて
鮮明にあの教室を思い出す。
受験とはおそろしい。
先の見えない不安感と過去のあたたかい記憶がぶつかって
涙が止まらない。
5/10/2024, 10:10:11 AM