#29 もう一つの物語
「はい!ありがとうございます!勉強になります!」
木曜日。週の終わりが近づいてきた。
あと1日会社に行けば三連休だ。
「冴木さんはいつも笑顔だし、仕事も早いし素晴らしいね。人当たりも良いしお客様の評価も最高だよ。」
「いやいや、そんな!とんでもないです!
ありがとうございます」
"人前では''いい人でいられる。
愛嬌を振りまいて、めんどくさい仕事もただただこなして、どんなクレームにも笑顔で対応する。
タスクをこなす毎日。
「彼氏いるのー?」
上司からのセクハラじみたプライベートな質問にも
「いないんですー」
笑顔でかわす。
彼氏なんて欲しくてもそんな簡単に出来るもの
じゃない。学生時代に学んだんだ。
毎回クズな男にばかりに引っかかる。
でも、心のどこかで
「もしあの時別れていなかったら
別の人生歩めてたのかな」
そんなことを考えている自分がいる。
学生時代。漫画で呼んだ青春に憧れて
元カレのことも自分のステータスのように感じていた。今思えば自分もクズだったんだな。
ー誰も知らない。ホントの私ー
面倒くさがりで、他人になんて興味無い。
友達からの誘いだって平気で断るから
嫌な奴って思われてるだろうな。
「友達…友達かぁ…、しばらく会ってないなぁ」
SNSを開くと現れる充実した人生の人たち。
毎日会社と家を往復している私とは程遠い世界の物語を歩いている人たち。
「羨ましい…」
そうは思わない。
でも、こんな私でも毎日こなすタスクは他にある。
「創造ノート」
そう名付けられたこのノートは、学生時代から
私の思いや考えを書き綴ってきたノート。
創造するだけで充実出来るんだから。
今日もペンを手に取り、お気に入りのお茶を用意して
私の、私だけのもう一つの物語を書いていく。
しぐれ
10/29/2024, 1:06:19 PM