『ベルの音』
なんとなく学校帰りに寄ったカフェ。
いつもは見向きもしなくて、なんなら今日初めて知った。
ひっそりとした場所にある訳でもないのに、何で今まで気付かなかったんだろうと思い、足を止めて見ていた時ドアを開けたベルの音がした。
「おや、お客さんかな?」
「あ……」
「良かったら入っていく?」
出てきたのは自分より年上のお兄さん。20代後半くらいだろうか。
お兄さんの問いに頷き、中へと入った。
人気のカフェのようにキラキラとした場所では無くて、木をベースに落ち着いた色味とゆっくりとした音楽が流れている。
カウンターに座り、メニュー表を見た。大好きなミルクティーがあったのでそれを注文した。
「ちょっとまっててね」
そう言ってお兄さんはミルクティーを作り始める。
ちらりと辺りを見た。
誰もいない空間に、独り占めしているような気分だ。
「はい、お待たせ。ミルクティーです」
差し出されたそれにゆっくり口を付けた。
ほんのり甘いミルクティーに、ほっと心落ち着ける。
「なにかあったの?」
お兄さんは聞いてきた。
「……なにかあった訳じゃないんです。でも何もないんです、私」
周りのみんなは将来どうするとか、やりたい事があるとか、もうそんな事を考えていた。
自分が置いていかれるような気になって、勝手にいじけていただけなのだ。
「何も無くてもいいじゃん」
「……え?」
「無理やり作るものでもないからね、そういうの。何かあった時に備えておくのは良いのかもしれないけれど」
「い、良いんですか……?」
「決めるのは君だけどね。でも、大事なのは君の思いだからさ。それは君しか知らない」
周りのみんなに合わせることはないんだよ。
お兄さんはそう言った。
そっか、いいのか。
ふ、と軽くなった気がした。
最後の一口を飲み干し、支払いをする。
お兄さんは店を出る前「応援してるね」と言ってくれた。
「ありがとう、ございます」
カラン、とベルの音がした。この音にも応援してもらったようで帰り道の足取りは軽くなっていた。
12/20/2024, 1:14:15 PM