作:ロキ

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『我が命が燃え尽きるまで!!
    姫様の命を御守りします!!』

我の目の前で、片膝を立て真っ直ぐな瞳で見つめ
真っ直ぐな言葉を述べた彼。

そう……。これから戦が始まるのだ。


戦が起きる原因…それは我、
(竹田宮家 竹田宮重春の次女 ハル)が
関係している。事の始まりは、
《信田家 信田虎之助の嫡男 正典》
との婚約破棄。

竹田宮家が、治める国は小さいながらも
山や田畑で採れる作物は、どれも立派な物だった。
それは、我の父上、重春が民を大切に想う人だからだ。
父上は、民と城を遮る大門を見つめこう言い放った。

「大門を開けろ!!」

門番の人、父上に従う者達は目を見開き
父上を止めようとした。
<何をおっしゃいますか!?そんな事をしたら、殿や姫様の身が危のうございます!>
<民たちが、命を狙うかもしれませぬぞ!!>
皆が、父上を取り囲いながら皆口々にこう答えた。
そんな中、父上は一際大声で言い放った。

「無礼者!!これでは民の声が聞けぬ!
門が閉じられていては!民が助けて欲しい時に
手を貸せぬ!民を守る事も出来ぬ!!
儂は、そんな情けない事は死んでもせぬぞ!」

その一言に、シン…と周りは鎮まった。

国を治める主が起こした、この言動は民達にも広がり
皆が、驚いていた。殿様が…??と。

大門が開かれた時。この門は本当に開かれるのか?
疑っていた、大勢の民たちは大門の前に集まっていた。
父上も我も、大門の反対側にいる事は知らない民たちは
我らの姿を見た瞬間、跪いた。

「民たちよ…顔を上げなさい。
この門は、いつでも開いておる。助けてほしいときには
力を貸そう。儂と話がしたいのなら話そう。
先代は、門を閉じ民たちの声を聞こうともしなかった。力も貸そうとはせず、年貢を取れるだけ全部
取っていった。そして…苦しんだだろう?
……儂は、そんな事は死んでもせぬ。
民も、丹精込めて作った物を腹いっぱい食べたかろう?
だから、全部は奪わん。半分は民たちへ半分は我らに
納めること。
それから…必要なものがあれば、此処へ来なさい。」

父上の言葉に、民たちは泣いていた。

この、話が隣接する信田家の耳にも風の噂で入ってきた
風変わりな殿様が居るらしいと…

信田家は、海に近いから魚が多く穫れる。しかし
山もなく辺りは平坦な地形、そして海風が強く当たる
場所なため作物も枯れることが多かった。
その分、乾物は良く乾き作れることができた。

米が作れぬ……野菜も作れぬ…年貢も納められていない
民の身体は、痩せ細っていく。儂が治める国は、どうして先代からこうなんだ?どうにか出来ぬのか?

頭を抱えていた信田家の
殿、虎之助がある事を思いつく。

『確か…。重春殿の次女ハル様は…
未だに、婚儀をあげてぬなぁ………』

ニヤリと怪しい笑みを浮かべた虎之助は、近くの使用人へ正典を連れてこい。と告げた。しばらくし
❲父上…お呼びですか?❳と、正典が部屋に入って来て。
ドカッと、儂の前で胡座をかいた。

ニコニコと、笑みを浮かべながらワシは言った。

『お前…重春殿の娘に婚儀の申し入れをしろ。
儂が、文を重春殿に送る。』

❲……はっ?…今、何と??❳

『重春殿の次女ハル様と、婚儀をすれば
国の拡大と、米、山の物、野菜が採れる
ワシらにも手が出しやすい。反対に、彼等には海の幸が
手に入る。魚の乾物に塩が与えられる。
良い考えだろう?』

❲しかし…私には許嫁のシンがおります。❳

正典には、すでに嫁にすると約束した相手がいた。
武家の娘 藤原家 藤原新左衛門の長女 シンだ。
正典も変わった考えの持ち主で、信田家を去り藤原家へ婿入りをすると心に決めてから、祝言の日取りも必要な物も用意をしようと考えている最中だった。

『あぁ…あれな。破棄にしたわ』

シンとの祝言に元から反対していたワシは
何だ…つまらぬ話か。と、真顔でアッサリと答えた。

❲……!?…父上!!❳

あまりの事に、驚きと怒り、憎しみが正典の中で
渦を巻いた。

❲何故!このような…❳

『何故?武家の家に婿と入る事自体、ワシの恥だ。
それに、年貢も納められん民たちの下で暮らしたら
のタレ死ぬのが、目に浮かぶわい。ハル様と婚儀をあげたら、何もかもが手に入る。
何もかも……な。……そうそう…ホレ』

懐に隠していた文の束を、ボンッと雑に正典の方に
投げ捨てた。その弾みで文は散らばった。
正典は、文を拾い集めた。其処には、〘信田正典殿〙
と書かれていた。封を後ろに返すと、そこには
〘シン〙と書かれていた。

『話は終いだ。さて…と。』
ワシは、スッと立ち上がると計画に移ろうと動き始めた

正典は、封を見つめたまま動けないでいた。
どのくらいの時間、そのままでいたろうか?辺りは、
日も傾いて来ていた。正典は、腹を括り封を切った
中から、文を取り出すと…一呼吸置いてから
文を広げ始めた。

文の内容は、こうだった。
会いたい。そなたを想う気持ちが綴られていた。

2通目も、同じように封を切ってみた。
内容は、見合いを申し込まれたが約束した相手が居ると
見合いを断った事。

3通目、4通目も同じように封を切った。
内容は、いつもは、返ってくる返事を何故寄越さないのか?きっと、忙しいのだろうな…。と、寂しい気持ちを文に綴られていた。

5通目の封を切って、文を広げた時だった。
内容は、隣の国の姫君との祝言の事が書いてあった。
民たちの間で噂になっていると、それは事実か?と
それから…使いのものが来て多額の金を持ってきた事
父母は、多額の金を喜んで受け取り、祝言を破棄された事。反対したが聞き入って貰えなかった事。
元から、父母は正典殿との婚儀に反対だった事。立場も地位も違うだろう。と、言われた事。
何もかも失った私は、何を希望とすれば良いのだろう?
私は……。

……そこで終わっていた。
正典は、最後の封に手を伸ばした。
そこで違和感を覚えた…何だ?
それが、分からないまま封を切った。
文を広げた瞬間に、違和感の正体が判明した。
文の文字が、シンの字では無いのだ。
シンの妹、すゞからであった。
父母と大喧嘩した事。
姉は……家を出て行った事。夜になっても帰ってこない
朝になっても帰ってこない。
そして、姉は沼地で見つかったと。
2度と目を覚まさない。息もしない姿で。
姉は、死んだ。姉を返せ!怒りと憎しみの内容だった

正典は、静かに涙を流した。
殿が憎い……隣の国の姫君が憎い…。
その瞳は、憎しみがこもっていた。



信田家での出来事から5日後の事であった。

大門を開けたその日から、大勢の民たちは城へ行き来していた。壊れた橋を直すのを手伝って欲しい。とか
家で採れた野菜を食べて欲しい。農具が壊れてしまって困っている…などが数多く。
父上が、職務で会えぬ時は我が話を聞いてあげた。

壊れた橋を直す時は、人手が空いている者や力がある者に声をかけた。
家で採れた野菜を持ってきた者には、料理をし民や城の者で分け合い食べた。
農具が壊れてしまって困っている者には、手先が器用な者や知識がある者、鍛冶屋に壊れた所を直してもらう為
の金銭面の援助をも行った。

そんな毎日を過ごしている中で、例の文が届いた。
父上は、文の内容を読みとても驚いていた。

「ハル…信田家が…見合いをせぬか?との話だ」

[見合い…ですか?しかし…]

「……?しかし何だ??」

[…いいえ。]

我は、口を濁した。その理由は…想い人がいるのだ。
これは、誰にも知られてはいけない。
そして言えぬのだ。
父上は、不思議そうな顔をしたが、それは一瞬だけだった。すぐに、文を見つけ呟いた。

「しかし…何故、こんな急な話になったのだろうか?
何か、理由でもあるのか??」

実は、信田家の良くない話は、職務で出向いた時に南の国の城でも、北の国の城でも噂を聞いたことがあるのだ。民が痩せ細り流行り病にかかり大勢が死んでいる話
海風のせいで、作物が枯れて育たない話
虎之助殿が、金遣いの荒いと噂が多数。

確かに、竹田宮家が治める国は作物が豊富に採れる。
山もあり、海風は入ってこない。しかし、海が無いため海の物は捕れぬから隣の国まで、山の物を売りに行く時に買い付ける不便さは有る。夫婦になれば両方が穫れる
かもしれぬが……うーん。

「……よし。誰か!朝霧を呼んでくれ!!
あやつの考えが聞きたい!」

父上は、大声で使用人に声をかけた。
朝霧…。その名を聞いた時に我の心臓はドクンッと
一際大きく脈を打った。

しばらくすると、庭からバタバタと足音が聴こえてきて
使用人と共に男がやって来た。
男は、殿と我の前で片膝を立て、顔を伏せた状態で
こう云った。

『朝霧蔵之進の助 鬼丸 只今此処に。』

「うむ。朝霧、顔をお上げ」

はっ。と、返事をした後に顔を上げた朝霧。
髷を結っていない美しい色の黒髪と瞳
左目の下には小さいホクロが1つ
そして、細身なのに引き締まっている身体
戦が起きた時に先陣に向かい嵐の如く蹴散らす
ついた異名は、(竹田宮の守護神)や(鬼神)

我は、鬼丸を見つめ
相変わらず美しい人だな…。と思っていた。
幼い時から、我らの身を護ってくれて民の命も
護ってくれているこの人は、…我の想い人だ。
そんな事を知らずに父上は、文の話を説明していた。
文を見せてほしいと、彼は頼むと
父上は、それに応え文を手渡した。

「お前の意見が聞きたい。どう思う…?」

『……。殿
この話は、無かったことにしたほうが良いかと存じます。実は、先の戦で妙な話を耳にしました。一人の娘が沼地で命を絶ったと、気にはしなかったのですが、その話には続きがあって、城から多額の金を受け取った。と、酒に酔いつぶれていた男が騒いでおりました。なので、その男に尋ねたのです。何故、城から金を受け取ったのか?そしたら、うちの娘と城の正典様が祝言をあげるのを取りやめるためだー!金に困っていたから、この話に乗ったんだ……と。』

「その話は、いつ…?」

『確か…大門を開けた日です。』

父上も、我も…一瞬、息をするのを止めた。
大門を開け、民と共に地位も関係なく豊かに過ごすことを願って行動を起こした父上。

自分の私利使用の為に、娘の命を奪い祝言の約束を破棄し憎しみしか生まれなかった…そして…
竹田宮家が治める国までも、民までも我までも奪おうとするもう一人の父上。

「……お前の意見を聞いて良かった。
罪もない娘の命が奪われたんだ。やはり、悪い噂は本当だったんだな。礼を云うをぞ朝霧。
文を用意してくれ!返事を書く決心がついた。

朝霧…仮に戦になったらハルを命を懸けて護れ
護れなかったら…儂がお前を殺す。
それを忘れるな。良いな!!」



   ※そして、話は冒頭へと繋がる※

9/15/2024, 1:55:11 AM