撫子

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※前日の「私の当たり前」の続きのようなもの

 晴れ空の香りを感じて、夢の波間から這い上がった。
 傍らに静かに控える優しげなまなざしに、そっと微笑み返す。

「おはようございます」
「おはよう、これはネモフィラ?」
「ええ、今朝のサラダのお味見でございます」
「素敵ね」

 髪に飾られていた小さな花を取り、そのまま口に含んだ。しっとりと透き通った水の味が、舌に広がる。
 ゆるゆると身体を起こすと、つられて持ち上がった薄いヴェールが、周囲に浅く敷き詰められた水の絨毯の上を、柔らかく滑って波紋を作った。

 春の草花を編んで作られた寝床の近くまで寄り、わたくしの髪を丁寧に梳るあなた。
 毛先に絡んでいた蔦と蓮の花が、真珠色の櫛によって落とされ、それは彼女の膝の上の水盆へと着水する。

 毎朝、可憐な朝食を拵えてくれる、大切なあなた。
 わたくしは未来永劫、あなたのためだけに咲き誇る花であり続けましょう。

「朝食をお願い。楽しみだわ」
「はい、すぐにお持ち致します」

 わたくしの髪に飾られていたネモフィラは、仄かに彼女の花びらのような呼吸を含んでいた。その余韻は甘く、髪の先まで芽吹きそうな陶酔をもたらすことを、可愛いあなたはきっと知るよしもないのでしょうね。

(目が覚めると)

7/11/2023, 3:47:54 AM