白糸馨月

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お題『帽子かぶって』

 私は魔法使いの一族の生まれなんだけど、世間が思い浮かべる魔法使いのステレオタイプみたいな帽子があんまり好きじゃなかった。
 だって、とんがってて服と合わせにくいし、ハロウィンじゃない時に被ったら『いつも仮装してるの?』と友達にからかわれてしまうのが予想できるからだ。
 けれど、ある誕生日の日にお父さんから帽子をもらって、その時は『いらない』と泣いて困らせたっけ。普段から被らなくても怒られないからそのまま何年も放置していた。
 だけど、成人した今、この帽子がどんなものか知る。
 今や魔法使いは希少価値があるとされ、賞金稼ぎみたいな人がこぞって私たちのような魔法使いを攫って売り飛ばすという話をさんざん聞くからだ。
 ついに親友が攫われた話を聞いた時、私はその帽子を被った。実は私の家の周辺を賞金稼ぎが嗅ぎ回っている最中のことだ。お母さんと私はすみのほうで震えていた。
 奴らが思い切り音を立てて私の家に入ってきた。そのタイミングで私はお母さんの手を引いて逃げた。
 走って遠くまで行って、だが、盗賊どもは私たちを追っては来なかった。
 私はさんざん嫌がった帽子をとる。この帽子は私と周囲にいる人間の姿を見えなくする効果があるものだった。
 お母さんは人間で、人と魔法使いの混血の私は実は魔法が使えない。だからお父さんは、私たちを守るためにこの帽子をくれたのだと。
 今、その父は数年前、賞金稼ぎに殺されてもういない。
 私はお母さんと抱き合いながら無事を確かめあった。

1/29/2025, 3:56:59 AM