今日のテーマ
《風に身をまかせ》
分かれ道に差しかかり、わたしは木の枝を立てて手を離す。
突如、強い風が吹いて、枝は右側へぱたりと倒れた。
「よし、じゃあこの道は右にしよう」
「相変わらず行き当たりばったりな決め方だな」
「いいでしょ。目的地は決まってないんだし、風の向くまま気の向くまま」
「己が運命も風まかせってか」
「大丈夫よ、わたしには風の精霊様のありがたーい御加護があるんだから」
そうでしょう、と見上げると、彼――わたしの守護者である風の精霊はやれやれと言うように肩を竦めた。
一緒に旅を続けるうちに、いつのまにやらこんなに人間くさい仕草をするようになってしまったけど、彼は風を司る精霊の中でもかなり上位の存在である。
故あって今は人の姿を取っているが、その実力は疑うべくもない。
そんな頼もしい相棒が側にいて、一体何を畏れることがあるだろう。
「あなたにだから身をまかせてるんだけどな」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもない」
「じゃあ、とっとと先を急ぐぞ。この調子なら日が暮れる前に次の宿場までに着けるだろ」
どうやら地図は頭に入っているらしい。
ということは、やはりさっきの風は彼の仕業ということなのだろう。
そうやって、さりげなく過保護にされるものだから、いつまでたっても他の男に目が向かないのだ。
精霊に恋をしたところで報われるはずなどないと分かっているのに。
少し先を歩く頼もしい背中を見つめながら、わたしはこっそりため息を吐いた。
彼の方こそ、他に目が向かないように、せっせと囲い込んでいるのだということを、わたしはまだ知らない。
わたしの想いも、彼にだからこそ運命を預けて身をまかせているのだというのも、すべて筒抜けだということも。
5/14/2023, 1:43:58 PM