ほろ

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中学生のわたしは、早く大人になりたかった。
仕事をしている大人がかっこよく見えたし、わたしもあの中に混ざって、ゆくゆくは結婚して家庭を持って、なんてありきたりな未来を思い描いていた。相手はきっと職場の人だな、とか居もしない恋人との関係を考えていた。

「今日で二十歳だっけ。おめでと」
妹が缶チューハイを手元に置いている。その前には半分食べられたケーキ。もうそんな歳なんだな、と毛先だけ染めた髪を見つめる。
「あんがと。お姉、今日飲める?」
「ごめんパス。明日なら良いよ」
「ん、分かった」
割と素直に答えてくれる。昔はもう少し、駄々をこねていたのに。
わたしは仕事用のバッグをその辺に放り投げて、遅い夕食を食べ始めた。野菜炒めのラップを外しても、湯気はたたない。
妹が、缶チューハイを一口。とん、とテーブルに置く。
「全然さ、大人の仲間入りって感じはしないけどさ」
「うん」
「でも多分、お姉みたいカッコ良く仕事してさ、いつか結婚もするんだよ。二十年はあっという間だったけど、きっと良い大人になるよ、私」
「そうだね」
えへへー、と妹は既に赤くなり始めた頬を弛める。

わたしは、今年で二十八になった。
中学生の時思い描いていたのはまやかしで、仕事ができる大人にはなれなかったし、結婚も……恋人すらまだだ。
妹には、わたしのようにならないでほしいと思う。
かっこよく仕事をする大人は、日付が変わるギリギリに帰ってきたりしないのだと、知ってほしいと思う。

「なれるといいね」
「うん」
わたしは冷めたご飯を、そのまま口に入れた。

1/10/2024, 11:19:17 AM