白玖

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[子供のままで。]

人生ループというものを皆さんは信じますか?
僕は、いや、俺は信じていません。
厳密には信じていなかった、というのが正しいでしょう。

俺はある日から人生のループに入った。特定の歳、特定の日付で僕は事故に遭い、人生を一からやり直している。今いる人生が何周目かだってもう覚えていない上に、巻き戻る度に記憶が引き継がれている。
面倒なので言ってしまおう、16歳の5月12日に俺は必ず事故に遭う。もう覚えてなんていないけどループに気付いた俺は何度も事故を回避しようと努力したのだろうが現状はこの通り、この忌まわしいループから抜け出せてはいない。
最初は驚きがあった、と思う。楽しんでいたとも思う、当たり前に。
超常現象的なものに巻き込まれはしたものの自分の記憶と頭脳はそのままなのだから、『この記憶と頭脳と人格を維持したまま子供の頃に戻って秀才天才と持て囃されたい』と人間一度は考えることを実際に体験できる状況にいるのだから、そりゃやらない訳ないじゃん?って話で。
でもそんなもの一回で十分なんだよ、2回も3回も何十回とやったら飽きが来るもんだよ。今俺の中にあるのは絶望しかない。
『子供のままでいたい』
そういう大人の考えも、16年と何百年しか経験してない俺でも理解は出来る。仕事、私生活、結婚、色々あって大変なのも理解してる。子供でいると親の世話になったままでいられるし、考えだって擦れずに何でも純粋に吸収できる。純粋な子供が、子供だった時は良かったって言う人もいるのも分かってる。

(でもさ――)

「っ……がはっ……くっ!」
『おい誰が膝付いていいって言ったよ、サンドバッグなんだからちゃんと立っとけよ。立たせろ』
『ういー。ほら、まだ終わってねぇぞー』
全身が痛い。何万回と殴られても痛みにだけは慣れない。悔しい、今度は腹を殴られた。血がボタボタと零れる。また吐血してしまった。あぁ、また汚したって怒られる、嫌だな。
『うぉーい!もう一発〜』
「う、ぐ……はっ、げほっ」
『は?手汚れたんだけど最悪だわ』
「はは、は、はははっ……」
口の中に残った血を目の前の奴に向かって吐き出すと奴はまた顔を醜く顰めて左の頬をグーで殴られる。くそ、最悪だ。意識が朦朧としてくる、何言ってんのか聞こえないんだよバカ。デカい声で喋れ」
『んだとっ……! おい、タバコ寄こせ』
両腕が離されて自然と地面に倒れ込む。
ずっとこうだ、何百回と繰り返した人生、ずっとこう。クソったれな人生だったのになんで俺は事故に遭った時「生きたい」と一瞬でも考えてしまったのか。16年間クソみたいな人生だったから生きて少しでも良い人生にしたいとでも願ったのか?我儘にもそんなことを願ったから、永遠にも続くこの地獄に落とされたのか?
なぁ、でもそれのどこがアンタのお怒りに触れたってんだよ、神様。当然のことを願っただけだろ。救えもしない人生を少しでも良くしたいって、それがそんなに悪いことだったか?俺みたいなクズにはそんなことを願う権利すら許されてなかったっていうのかよ。
「う"、ぁぁああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」

(でもさ――)

子供は、逃げられないんだよ。
金銭的にも精神的にも。
逃げようと思っても逃避先も逃げる為の金だってないんだ。
だから俺は、貴方達大人が羨ましくて仕方ない。

5/12/2023, 12:23:47 PM