かたいなか

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「『君の目を見つめると』、『君の奏でる音楽』、『突然の君の訪問』に『君の背中』。
……まだお題になってないのは、あと何だ?
君の仕草と君の書く文章と、君の……料理?」
去年の2月は「君は今」なんてお題を書いた。某所在住物書きは過去投稿分を振り返る。

「君」から始まるお題は、少々のアレンジが可能だ。文字を追加すれば「太郎君の声」にも「主君の声」にも、なんなら「太上老君の声」にもなる。
ところで日本には「君島」や「大君」、「下村君」といった地名も存在する模様。
「志君の声がする」。なんと地域ライクな物語だろう。朝ドラのタイトルにできるかもしれない。
「『君の声』ねぇ……」

――――――

だいたい食い物のハナシやら、厨二ふぁんたじーな物語やらを投稿しているこのアカウントです。
「書く習慣」は恋愛風のお題が多く登場するので(例:「Love you」「イブの夜」「愛言葉」)、
おノロケ執筆不得意な物書きが、ちょっとロマンスなおはなしをご用意しました。

前回投稿分に、繋がらないでもないおはなし。
都内某所のおはなしです。
十数年前の東京には、既に「こっち」の世界のものではない異世界由来の巨大組織が、
少なくとも2個は、確実に潜り込んでおりました。

ひとつは「こっち」の世界の独自性と独立性を保全保護したい「世界線管理局」、
もうひとつは、「こっち」の世界を滅亡世界の難民受け入れ先にしたい「世界多様性機構」といい、
双方が双方、相手の思想信条に対して、そっぽを向いた仕事をしておるので、
特に多様性機構は、管理局に対して、それはそれは敵意むき出しで、威嚇などするのでした。

さて。そろそろお題回収といきましょう。
お題回収役は、前回投稿分でも登場した、付烏月、ツウキという男。
実はこの男、「世界管理局」の局員でして、ビジネスネームを「カラス」といいました。

カラスは当時、管理局に就職してからまだまだ数年の、ひよっこカラス。
相手の表情と仕草を観察して、脳科学の知識でもって、敵から情報を手に入れるスキル1本で、
スゴ腕主任として、活躍しておったのでした。

ひよっこ主任のカラス、管理局に潜入してきたスパイに、目的と仲間の数を聞きます。
「へッ、誰が管理局なんかに情報を渡すかよ」
あぁ、あぁ。スパイさん。君の声がする。
君の左右非対称な平静と恐怖の表情から、「俺、実は新人なんです」と声がする。

ひよっこ主任のカラス、管理局で一緒に仕事をしている裏切り局員にも、計画と本心を聞きます。
「いやいやそんな、裏切りなんて。考えてないよ」
あぁ、あぁ。管理局員さん。君の声がする。
君の首筋をさすったり喉元を触ったりする指から、「僕、すごく不安なんです」と声がする。

表情と仕草の分析が得意なひよっこカラスは、
たちまちのうちに、敵対組織の「世界多様性機構」が、近いうちに「世界線管理局」へ、大規模襲撃を仕掛ける予定であると、情報を掴みました。

ところでそんな、ハイスペックひよっこカラス、
実は都内某所在住の現地住民な女性ひとりに、ポッと一目惚れしておりまして。
どうにもこうにも、無責任にも、恋い焦がれてしまっておったのです。

何故「無責任」って?そりゃもう、少し考えれば簡単なことです。
ひよっこカラスはじめ、世界線管理局の局員は、世界多様性機構から嫌われておるのです。
そんな男性局員が、暴力に対抗する手段も知らない女性に、無責任に恋焦がれてしまったら、
その女性は、かわいそうに、敵対組織から見れば格好の誘拐対象になってしまうのです。

なのに、ひよっこカラスときたら、そんなこと全然考えもせず、対策すらせず、
カァカァクァークァー、愛の歌を鳴くのです。

「今日はあのコに、何をプレゼントしよっかな」
あぁ、あぁ。愛しい人。君の声がする。
記憶の中のあの瞳から、あの唇から、「私、あなたの全部理詰めな行動が少し怖いけど、それを含めて一緒に居たいの」と声がする。
「それとも、どこかで一緒に、お食事がいいかな」
恋に盲目なひよっこカラスは、「この後」に何が待ち受けているかも予想せず、
ただ幸福に、一途に、「君の声」がする方へ、飛んでゆくのでした……

2/16/2025, 6:01:37 AM