お題 透明な水
ベッドから、腕だけを伸ばして、サイドテーブルに置いてある310mlのペットボトルを掴み取り、ゆっくり蓋をあける。
うつ伏せの状態のまま、上半身だけ起こした身体に、勢いよく水を口に流し込んでいくと、
身体の内側にあった熱が徐々に引いていき
口の中にあった諸々の不快も、喉を鳴らしながら飲み込まれていく。
ペットボトルの水が空に近くなると、
飲み切れなかった分の水が口から溢れ、ぼたぼたと数滴シーツに落ちる。
こういうとき、水で良かったな、とか
あの番組録画してあったっけ、とか
大概すごくどうでもいいことを考えている。
『あーあ、やっちゃったなって顔してる』
突然確信を突かれた気がして、ハッと我に変える。
『こぼれたこと?今日のこと?』
隣で寝ている彼の方へ身体を寄せると、わたしの額に手をおいて髪を撫で始めたので
この会話が続かないように、微睡んだふりをする。
水が無色透明で無味無臭でよかったと思う。
わたしの中にまだ僅かに残ってる味も匂いも、
完全に消し去ることなく、そのままの状態で潤してくれる。
5/22/2023, 8:04:24 AM