『きらめき』2023.09.04
きらめきの世界には闇が少なからずある。
必ずしも綺麗なものではなく、汚い部分もあるのだ。
ガラスの割れる音、悲鳴、怒声。
にわかに色めきたつ店内は、そんなきらめきとは縁遠い有様となっている。
最近、順位を上げてきた女の子が、客の男に羽交い締めにされていて、首元に何かを突きつけられている。
男は目が血走っていて、何事かを喚き散らしている。
女の子が男を袖にしていることが気に食わない。自分以外の客を取るな。
こんな具合である。
黒服たちも女の子を人質に取られているので、身動きができない。
おれは気づかれないように、スマートフォンで警察に連絡を入れようとすると、誰かに制された。
「俺にまかせて」
そっと耳打ちをされ、ドキリとした。
顔なじみの黒服が、いつもの右口角を上げる笑い方をする。
そして、灰皿を手に取ると、それを男に向かって投げた。
それは、綺麗に男の顔にヒットする。怯んだ好きに女の子は逃げ出し、他の黒服に救出された。
「いけませんね、お客様。女の子に乱暴したら出禁ですよ」
彼は穏やかに言いながら、男に近寄る。
「その前に、落とし前付けないといけねぇな」
彼の言葉を合図に、黒服たちが男を取り囲み、そのままバックへ連れて行ってしまった。
入れ替わりに別の黒服たちがやってきて、人質にされた女の子のケアをする。
彼はマイクを持つと、その場にいる客に向かって語りかけた。
「大変申し訳ございませんが、本日は閉店いたします。お騒がせいたしましたのでお代も結構です。ですので、今日ここであったことは他言無用でお願いいたします」
反論すら許さないその声音。彼に逆らってはいけないことは、歌舞伎町に「遊び」に来るものなら誰でも知っている。
きらめきという意味を持つこの店の闇は、他ならぬ彼なのである。
9/4/2023, 1:47:39 PM