ゆずし

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熱い。ぼくはズキリと胸の奥に鋭い何かが突き刺さる様な痛みを覚えた

「誰もがみんな不安を抱えている」

嗚呼そうだ。分かっていた。分かっていたつもりになっていたのが嫌になった。ぼくが理解したつもりでいて、だからこそ彼女のそんな状態を見て一気に現実を知った。

彼女は病室のベッドにいた。何やら大きなチューブに全身を繋がれていて、今も必死に戦っている。身体も、心も。

デートに行く時。キスをする時。ずっと不安を抱えていた。されどぼくはその悩みの種を知ろうともしなかった。ここ最近の彼女の表情は、ぼくに僅かな違和感を振り撒くだけで、心の内を最後まで知る事はなかったのだ。

「……っ」

脳裏に、彼女の明るげな笑顔が浮かぶ。ぼくに心配をかけないために必死に嘘を並べ、動揺を隠し、平静を装っていた。それが分かった瞬間、胸の内が熱くなって途方もない後悔と無力感に駆られた。

「ごめん、ごめんな……」

願わくば、もう一度……元気な君と語らいたい。
横たわる彼女の掌を強く握り締め続けた。


2/10/2023, 11:33:09 AM