『時間よ止まれ』
彼女は毎朝、7時15分発の電車の3両目に乗る。
さらさらな黒髪のロングヘアに黒縁メガネ、スカートは長めでいつも本を読んでいる真面目そうな子だった。
電車がホームに入る風で彼女のうさぎのストラップが揺れる。
僕が彼女を知ったのは夏のある日。
彼女が落としたうさぎのストラップを僕が拾ったのがきっかけだった。
男子校で女の子に慣れない僕は、彼女の微笑みに一目惚れをした。
それからの数ヶ月。
夏の暑さが和らぎ、蝉の声が遠くになって、
葉っぱが鮮やかに色付いて青空を彩り、
曇り空からハラハラと雪が舞うようになっても、僕は彼女に声をかけることすらできずにいた。
今日は朝から雪がしんしんと降っていた。
積雪の影響でダイヤは乱れていた。
いつものように彼女は3両目にいて、僕はいつものように彼女の後ろに並ぶ。
しかし、今日は何かがおかしかった。
何かが違った。
いつもと同じバッグ、靴、セーラー服、艶やかな黒髪、黒縁メガネ、
…そうだ、いつものストラップがない。うさぎのストラップが。
電車が来る。
遅延のせいでいつもよりスピードを出してホームに入ってくる。
彼女が一歩前に出た。
待って、だめだ。
彼女がふらっとバランスを崩しスカートが風になびく。
僕は彼女に手を伸ばす。
黒髪が僕の手を虚しくすり抜ける。
お願い、時間よ止まれ。
2025/02/16
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2/16/2025, 1:30:30 PM