海箱

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【雨上がり】


雨が降っている。
もうかれこれ三十分ぐらいバス停で雨宿りしているわけだが、一向に止む気配がない。
遠くで雷の音が聴こえる。
そろそろまずいなと思い立ち上がって、でも焦るとろくなことがないと思い直し、私はまたその場に座り直した。
たぶん、大丈夫。雨の日は暗いし少し怖いけど、きっと……迎えが来てくれるはずだから。

天から降ってくる雨たちは、バス停の屋根や水たまり、そこら中に生えた草木に落ちては様々な音を立てていく。
『ざーっ』という砂嵐のような音の中に時折混じる、『ぴちょん』という雫が跳ねる音が心地いい。
うん、やっぱり雨の音は悪くない。
それに––––。

「天音!」

ほら、やっぱり迎えに来てくれた。
息を切らせて走ってきた彼女に、私は笑いかける。
「遅いよ、虹架」
彼女が来てくれるだけで、こんなにも嬉しがっている自分がいる。彼女が私を気にかけて心配してくれたことが、分かるから。
「もう雨上がっちゃったよ」
落胆したような彼女の声に外を見ると、さっきまで降っていた雨が嘘のように消え去っていた。
「せっかく傘持ってきたのに……」
「いいよ、せっかくだから傘さして帰ろうよ」
落ち込む彼女の横顔に、私は思わず声をかけた。
「ありがとう」
彼女は驚いた表情でこっちを見て、そして笑った。
雨上がりの空には美しい虹が架かっていた。

6/1/2025, 11:47:15 AM