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「鳥のように」

遮光カーテンから漏れ出る陽の光が天井から壁へと白い線となる。窓の外からは小鳥のチッチッという声が聞こえる。手探りでスマホを手繰り寄せると時刻は午前5時40分。日当たりいいのが気に入ったけどもう少し寝かしといてよね。誰に言うともなく口に出す。

もうこのまま一人で生きていく覚悟を決めてこのマンションを買った。70歳までのローンなんて気が遠いけど、やるしかない。思いっきりカーテンを開けたらバルコニーに集っていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。

窓を開けて日差しと新鮮な空気を浴びる。さて、今日も一日頑張りますか。バスがカーブを曲がると、きらきらと輝く海が姿をあらわす。高い空をトンビが舞う様が羨ましい。

スマホで海の写真を撮った。毎日同じ時間に同じ場所を撮ることにしている。並べてみると、やはり毎日違うことがわかる。よく晴れた日は海が青い。曇った日は白っぽい。海は空の色を映しているんだな。

トンビの声が聞こえる。そこから何が見える?いつかあんなふうに飛べたらな。駅に着いたバスが乗客を降ろし、乗客は駅へと吸い込まれる。

今日も昨日と同じように会社に行くとしても、海に一日として同じ表情がないように、そこでの一日が昨日と同じではない。あのトンビだって毎日違う景色を見ている。

8/22/2024, 8:57:35 AM