雨上がりの桜が散って、少し水分を含みながら舞わずに落ちてゆく花弁を横目に、宗介は千代の後ろをゆっくりと歩いていた。千代の着物は桜に似た淡く明るい色だったのに対して、宗介のものは青が深く入った着物だったので桜がぴたりと着いている様子が、第二の桜の趣を感じさせた。
千代は子どもらしい無邪気な性格であり、宗介は彼女の母がそんな彼女を叱っているのをよく見た。然し宗介は彼女が桜の幹よりもずっと深い芯を心に持っていることを知っていた。
そんな幹に彼は長らく凭れかかっていたので、彼女が咲かす花の匂いも落とした花弁の形もある程度は知っているつもりだった。
こんなに長くいるのに此方に顔を向けない彼女は、顔も可愛らしい上、笑顔がまた無邪気さを感じさせるので将来何処へ行ってもやっていけると、確信はなけれども彼は何となくその様な気がしていた。
桜が舞う。花弁が落ちる。
千代が笑いながら桜を追いかけて駆けていく。
宗介はこちらを一度も振り返らない彼女の後ろを追いかけながら、心に悲しさと名残惜しさが滲ませた。
もし今自分が彼女の行く道と違う道に進んでもきっと彼女は気づかないだろう。
色々考えても結局彼女に着いてゆくのは、彼女とまだ一緒にいたいのか、それとも彼女の行く方がどうしても正解に見えてしまうからだろうかという問いは宗介の中ではまだ形を成していなかった。
多分、千代は放っておいてもずっと幸せの中で暮らしていくだろう。そもそも彼女自身が幸せそのものであるのだろう。
そんな事は分かっていながら後ろから彼女の幸せが永遠である事を願ってゆっくりと彼女だけを追っていた。
幸せになって欲しいのは彼女なのか、将又自分なのか
宗介は考えてもいなかった。
ただひとつ、散った桜は街ゆく人に踏まれて
ぐちゃぐちゃになっていた。
其れを第三の桜の趣ととるかは宗介次第である。
4/1/2026, 8:42:16 AM