天津

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誰もがみんな

幼い頃、ふと自分以外の視点が存在しているという事実に気づき、奇妙な感動を覚えたことがある。自分が相手の顔を覗くとき、相手の目にはこちらが顔を覗いてくる光景が映っている。自分と相手が同じものを見るとき、色彩が同じように見えているとは限らない。色彩が異なるとはどういう世界なのか想像しにくいが、刺激と言語の対応が同じならたしかに齟齬は生じない。理解できないむかつくあいつも思考して生きている。そいつの生活があり、脳内でそいつなりに合理的な判断を行っている。
誰もがみんなそれぞれの人生を生きていて、それぞれの身体感覚や価値観を持っている。人間の数だけ視点があり世界が存在する。それなのに自分は一人だけで、自分の世界しか体感できない。今この瞬間にも、自分以外の膨大な視点と思考があちこちで展開されているというのに。
本は他者の視点を与えてくれるというが、それとはまた違うのだ。自分と同時的に生々しく生きている人々がいるというそのことが、この上なく不思議に感じられたのだ。

2023/02/11

2/11/2023, 5:44:19 AM