猫宮さと

Open App

《向かい合わせ》

今日は空も青く、明るい日の光で空気は強く温められているが穏やかな風が吹き、比較的爽やかな日だ。

自宅の僕の書斎から見えるいつもの木の根元に、彼女が座っている。寄りかかって昼寝をしているようだ。
そよ風に煽られさわさわとそよぐ木の葉と共に、彼女の透けるような白銀の髪も揺らぐ。
木陰で眠るその表情は、とても安らかだ。

すると、どこからか赤茶の縞の猫が優雅に歩いてきた。
猫は木に近付くと、それが当たり前であるかのように彼女の膝に乗り、正面から向かい合わせる体勢で腰を降ろした。
ずいぶんと人に慣れている猫だ。どこかの飼い猫なのだろうか。

その時ほんの少し彼女の頭がぴくりと動いたが、その瞼は下りたまま。
猫は、そんな彼女の顔に自分の顔を近付け、彼女の口元を小さな舌でぺろりと一舐めした。

猫の舌は、ざらついた構造をしている。
おそらくその為だろう。彼女はゆるりと瞼を半分程上げ目の前の猫に気が付くと、嬉しそうに柔らかく微笑んで猫の首筋を撫で始めた。

するり、するりと彼女の白い手が、赤茶縞の毛の上を何度も滑る。
猫も心地好さそうに目を細めると、彼女の頬に額を擦り寄せた。
彼女の表情は更に笑み崩れ、赤茶の後頭部から背中までを念入りに撫でていた。

その様子は、とても緩やかで優しくて、穏やかだ。
ふわり吹き抜ける風も、柔らかな空気を運び込むかのようだ。

ずっと見ていたくなる。そんな光景の筈なのに。
今は彼女の首元に顔を寄せ、身体を持たれかけている猫にどうしても意識が向く。
すると、心の奥に微かに擡げている想いに気付く。

あの空気に、共に包まれたい。

その想いは、あの猫と彼女の穏やかな佇まいから来る物か。
それとも、もっと違うところから来る物か。

何れは、自分の心と真剣に向き合って答えを見つける事になりそうだ。

8/26/2024, 2:57:19 AM