木陰

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そういえば、あの夜も、こんな土砂降りの雨だった。

私にとって、君に出会ったあの夜は特別だ。突然降り出した雨を防ぐ傘は持ち合わせておらず、急いで近くのバーに駆け込んだあの夜、私は君に出会った。

ずぶ濡れの私の姿を見た君はひどく驚いて。見ず知らずの私に駆け寄って、迷わずハンカチを貸してくれて。雨はしばらく止みそうにないと言うので、真夜中まで他愛ない話をして。

それからよく2人で会うようになり、次第に心を通わ
せるようになっていき、私たちは恋人になった。

君はまるで陽だまりのような人だった。執着でもない、支配でもない、確かな愛情が君にはあった。
嬉しい時、楽しい時、心が引き裂かれるくらい苦しい時。どんな時だって君はそばにいてくれた。
私が誰にも言えなかった秘密も、君だけは受け止めて、優しく私を抱き締めてくれた。
君がいるだけで、その空間は色鮮やかで。こんな日がずっと続きますようにって。

そう願っていたのに。どうして神様はこんな意地悪するの?

ねえ、酷いよ。
あの人を返してよ。
私は雨に向かってつぶやく。
君は最期まで優しかった。トラックに轢かれそうになった野良猫の身代わりになった。陽だまりのようだった君は、土砂降りの雨に解けて消えた。

それでも。この雨は私の心まで解かせはしない。
特別な夜、君と出会えたことは、確かに意味のある、美しいことだった。雨は冷たく降りしきれど、君からもらった温もりで、私はこの先も生きていける。きっと、きっと、また陽は差すと信じながら____

1/21/2024, 2:28:25 PM