いろ

Open App

【1件のLINE】

 自室のソファにごろりと横になったまま、スマホを立ち上げる。行儀が悪いよなんて嗜める君の声が、耳の奥で響いたような気がした。
 スマホの画面の中、LINEの緑色のアイコンの右上に赤いマークが主張している。一件の未読のメッセージを示すそれをつけっぱなしにして、もう一年以上になるだろうか。何度も何度も君とのトークを開こうとしては、その衝動を押し留めた。
 君と積み重ねた思い出を、君と交わしたくだらないやりとりの軌跡を、辿りたいのは本当。だけどこのメッセージを読んでしまったら、私がまだ触れていない君の言葉は、この世界のどこにも無くなってしまうから。
 ああ、なんて未練がましいんだろう。君がもういないこと、ちゃんと受け入れているつもりなのに。だけど君が淹れてくれる紅茶の味も、ソファでぐうたらする私に向けられる困ったような君の笑顔も、いつまで経っても懐かしくてたまらないんだ。
「好きだよ」
 君が生きている間には気恥ずかしくて伝えられなかった愛の言葉を、一人きりの部屋で囁いた。一件のLINE。君の遺した最期の言葉を確かめる勇気すらない意気地なしな私を、君はどう思うのかな。
 ぽろりとこぼれ落ちた涙が、スマホの画面をじわりと濡らした。

7/11/2023, 12:25:51 PM