本棚の隙間

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「そろそろ、来るよ!」
メイが、リビングの窓を開け、庭に出る。
それに続き、ケイトも出て、空を見上げた。
シャンシャンシャンと、遠くから鈴の音が聴こえてくる。
夜空から、トナカイが引くソリが、メイの家に降着した。
「メリークリスマス!」
降りてきたのは、赤い服を着た巨漢の老人。
ゴーグルを外し、髭についた雪を払う。
「あー、疲れた。おら、プレゼント」
「あ、ありがとうございます」
ケイトがプレゼントを受け取ると、思ったより重量があり、落としてしまった。
後ろからメイが顔出してそれを興味深く見る。
「おじさん、これ何?」
「あー、肉だよ、肉。うめぇーぞ」
「お肉ー!」
わーいとはしゃぐメイ。その横でケイトは、よろめきながら袋を、家の中に運び入れた。
「とりあえず、家に入ってください。近所の目とかあるので……」
「おう、悪いな。あっと……その前に」
後ろを振り返ると、ソリとトナカイに向かって見えない何かをかけた。
「何をしたんですか?」
「ここらへんは、お前みたいに素質があるヤツが居るみたいだから、見えねえように布をかけたんだ」
「へぇー」
ケイトに布は見えず、ソリとトナカイが見えている状態。しかし、他の人には見えないようになっているようだ。
「ハジメちゃん、お肉貰ったー」
メイが、台所でイブのディナーを作っている、兄のハジメに声をかけた。
「え!本当に?何のお肉だろう?」
前髪にキャラ物の髪留めをつけ、フリフリな白いエプロン姿で現れる。
重量に負けたケイトとは異なり、軽々と肉の入った袋を持ち上げた。
「鹿肉と七面鳥、あとイノシシだな」
ソファーに座ったおじさんが答えると、ハジメの目が嬉しそうに輝く。
「そんなに!これは明日のディナーが楽しみだね」
「ハジメちゃんのご飯、すっごく美味しいもん!期待してる」

肉を冷蔵庫へしまい、熱い緑茶をおじさんに用意した。
「イブなのにお前たちは、こう……青春が足りねえな」
「そうですかね。皆、こんなもんじゃないですか?」
「いやいや。ケイちゃんが枯れてるんだよ」
メイが出来たてのおかずをおじさんへ供する。
クリスマス感のない里芋の煮物だ。それを肴に飲むのは日本酒。
「おじさんこそ、サンタ味がないですね」
ケイトが言うと、大口を開けてガハハと笑った。
「だな!だが、こういう特別な日こそ、いつも通り好きな物を食うのも、悪くないわけよ」
「そうですね」
台所からいい匂いが漂ってくる。今日もまたいつもと変わらない夕食。
だが少し特別な日でもある。
サンタのおじさんと共に、イブの夜がやってきた。

12/24/2024, 6:36:23 PM