【視線の先には】2023/07/19
「ごめん、お待たせ!」
昇降口で立ち尽くす彼に手を振りながら近づいていく。
「本当にごめん!いきなり委員会入っちゃって。
大丈夫?なんともなかった?」
彼がこちらを向く。
「いや、ぜんぜん。お前のおかげで、女子たちも最近は
近寄ってこなくなったな。」
「そっかあ、良かったー。」
─── そう、私たちは、恋人じゃない。
彼はただの幼馴染。
モテる彼が最近後輩に付き纏われていて困っているのを
幼馴染の私が彼女のふりをしてサポートすることになっ
ただけだ。
本当に、こいつは昔っからものをはっきり言えないんだ
から。
本当に嫌だ。早く自立してほしい。
そんなことを1人で思っていると、彼の口が固く閉ざされ
ているのに気づいた。
何かと思えばどこか遠方に視線を向けている。
──── その視線の先には、クラスの女子がいた。
メガネをかけていて、本を片手に忙しなく走っていて危
なっかしい。でも、メイクも施されていないその顔は意
外と整っている。
─── そう、彼はあの子が好きなんだ。
きっと彼は、あの子に気持ちを伝える勇気がなくて、私
をずっとそばに置いて気を紛らわせている。
本当に、何をうじうじしてるのよ。
ほんとうに嫌だ。
─── 違う。
私を良いように使っちゃってさ。
─── 違うでしょ。
本当に嫌なのは、彼じゃない。
友人なら、彼のためになることをしてあげるべきなのに
彼の弱さにつけこんで、ずっと彼女のふりなんて続けち
ゃっている、誰かさんが嫌なんだ。
7/19/2023, 12:03:59 PM