浜辺 渚

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狭い部屋で僕と彼女はベットを背に床に座り込んでいた。晩冬の寒い日だった。誰かが冷蔵庫に入れて置いたのかと疑うほどに床は冷たかった。
ベッドの上の窓から刺すような西日が明かりのない部屋を照らした。小学校で解く図形の問題のような綺麗な日向と日陰の境界線ができた。僕は日陰にいて、彼女は日向にいた。
「夏だと鬱陶しいと感じるけれど、冬だと西日も悪くないわ」と彼女は言った。
「登った朝日だけでは足りないの」
「確かにそうかもしれない」と僕は言った。
「冬は太陽光の入る角度が低いからね、健康に必要な日光浴の時間も夏と比べて長いんだ」
部屋のホコリは陽光を反射させ、幻想的な砂時計のように緩やかに落ちていった。
「やっぱりそうなのね。なら、あなたもこっちに来るといいわ。日光に競合性は無いの、好きなだけ浴びるべきだわ」彼女は自分のいる場所を指しながらそう言った。
「いや、いいよ。僕は日陰に慣れてるんだ。仮に、人生で誰もが同じ太陽を共有していたのだとしたら、僕は常にそこには入れなかった側の人間だったからね」と僕は言った。
「そうかしら。あなたが覚えていないだけで、陽の光は誰にでも回ってくるものよ。いい?そういうのって、日が当たってる本人は案外気づかないのものなの」と彼女はなだめるように言った。
確かにそうなのかもしれない。僕にだって、光が差した瞬間はあったのかもしれない。でも、仮にそうだとしてもそれは瞬く間のことだろ。そんな刹那の光なんかでは長く鍛錬された闇を癒すことは出来ないのだ。あくまでこれは不可逆の暗さなんだ。

1/29/2025, 1:40:54 PM