お題『ただいま、夏』
振り返ればハウレスだった。買い物帰りらしく、バゲットが頭を覗かせている大きな袋を抱えている。
「お帰りでしたか」
「ついさっき。何か用事?」
ハウレスがいつになく生き生きとして見えたから、何かあるのかな、という小さな勘だった。
「街にアイスクリームの店ができていまして。よろしければ一緒に行き」
皆まで言うよりも早くベリアンがやってきた。
「主様、帰っていらしたのですね」
「うん。ただいまベリアン」
「ごゆっくりお過ごしください」
恭しく礼をすると、ベリアンはハウレスに向き直った。
「依頼です。ハウレスくんご指名の」
依頼と聞いてハウレスの顔が引き締まった。
しかし私のお口はアイスクリームになっていた。チョコ味のアイスをこよなく愛する私の舌は甘くて冷たい食感を求めている。
拗ねているのが顔色に出てしまっていたのかもしれない。ハウレスが困惑しているとフェネスが通りかかった。
「フェネス。主様をアイスクリーム屋にお連れしてくれ」
そう言ったハウレスの顔は残念そうに見えた。
フェネスのエスコートで馬車から降りると結構な列の最後尾に付く。日傘を差してくるフェネスを見上げた。
「あなたはナッツのたくさん入ったアイスが好きなのよね」
すると慌てて首を振る。
「主様と一緒に飲食できませんから」
「私がいいって言ってるの」
反論させない私にフェネスが折れた。
順番が来て私たちはそれぞれお気に入りの味のアイスを手に入れた。が、走ってきた子どもとぶつかって、私のアイスは地面に食べられた。
ギラついた日差し。そこそこな列。戦意喪失の私。
呼ばれて見上げれば、橙色の困り眉。
「このアイス、ベースはチョコなので……でも俺の食べかけじゃ、あっ、主様⁉︎」
フェネスの手の中から、ひと口いただく。
「美味しい」
私が笑えば、フェネスもふわりと微笑んだ。
8/4/2025, 1:45:02 PM