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▶130.「透明」
129.「星」「終わり、また初まる」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「主人、世話になった」
「ちょっと待っておくれ、旅人さん」

翌朝、宿の主人に挨拶をしていると、横から村長が声をかけてきた。

「なんだろうか」
「旅人さんの耳に入れておきたいことが」

村長の家に招かれ、お茶を出された。
その温かさを感じながら少しずつ口に運んでいく。

「話とは何だろうか」
「旅人さん、単刀直入に聞くがね。あなたは軍から追われているのをご存知かね」

「去年追われていたのは知っているが。今も?」
「そうだ。その割には随分落ち着かれてるようだが」
村長は、自分こそを落ち着けるように、残りのお茶を飲み干した。

「そちらこそ、通常は軍に突き出すものでは?」
「こちらはこちらで、思うところがあるのだ」

もう一口飲もうとした村長は、お茶が無いことに気づき席を立った。

「おかわりはいかがか?」
「いただこう」

お茶を淹れる村長は無言だった。
その様子を視界に入れつつ人形は今後どうするべきか思考を巡らせていた。

(やはり、軍はナナホシを諦めていなかった。とすれば、この国に居続けることは難しい。オリャンの植樹は…始めのうちは失敗するだろうな。あの酸味が難関だが、オリャンの実を分析して果汁だけでも再現できないだろうか?まずもうナトミ村には来れないだろうな)


やがてコポコポと、2つの器に新しいお茶が注がれていく音が聞こえてきた。

「オリャンの実の皮を使ったものだ」
「いい香りがするな」

(シブに持って帰ったら喜ぶだろうか?)
そんな思考につられた人形の顔は綻んで、わずかな笑みを見せた。

「実はな、」
人形の見せた隙のようなものに引き込まれたのか。
それまでの雰囲気がほぐれ、村長は詳しい内情を話し始めた。
話の最後には軍への愚痴に変わっていたが。

「旅人さん。もし、またここを訪れるつもりがあるならば、その時ワシらはあなたの味方になろう。これは、村の皆で話し合った総意だ」

その言葉に、人形は改めて村長の顔を見た。嘘ではないようだ。

「村長、ありがとう。てっきり、もうここには来られないのだとばかり考えていた」

ここに来るたび、ナナホシは傷ついていく。
それでも、来れなければ冬を越せずに壊れてしまうのだ。

「このオリャンの実は、友人にとって大切なものなのだ。また来年の今頃に訪れてもいいだろうか」
「もちろんだ」

(人間だったら、目から涙という透明な水分が出ただろうな)
人形は、言葉以上に感謝を伝える手段を持っていなかった。


村には、もう一泊することになった。
「話が長引いてすまなかったな」
「いや、有益な情報だった。感謝する」

ナナホシに与えたオリャンの残りは、空いた時間でまた洗濯に使うことにした。
翌日には乾いているだろう。
中から出てきた種も乾かし、紙に包んで背負い袋に入れる。


去年も行った土産屋で瓶詰めを1つ購入した。

土産屋の主人も‪✕‬‪✕‬‪✕‬のことは覚えていて、
友人に届けるなら自分は食べられないだろうと試食をさせてくれた。
こっそりナナホシに調べさせたが、加工品では駄目らしい。

「あなたの噂は、かなりひとり歩きしているようですよ」

出荷担当者が主に情報を持ち帰ってくるんですがね、と話は続いていく。

「旅人さんを知っている人からしたら、噂の人物は透明人間のようですよ」
「透明人間か」
「はい、実体のない透明人間ですね。ですから気になされませんように。毎度あり、お気をつけて」


(目には見えないものを透明というなら、
私が積み重ねてきた記録も透明なのだろうか)

村の外に向かって歩きながら、服の上からナナホシに触れる。
人の目に触れないようにじっとしている。

(いや、ナナホシはここにいる。同じように私もここにいる。それでいい)

3/14/2025, 9:37:49 AM