『雫』
「いらっしゃい。今日はどんなモノをお探しで?」
路地裏の古道具屋の店主は、カウンターに並んだ無数の小瓶を指差した。瓶の中には、ビー玉のような形の透明な液体が一つずつ収まっている。
私は迷わず、一番淡く光る瓶を選んだ。
「これを。失くした初恋を思い出したいんです」
店主は頷き、瓶の蓋を開けた。
私はその雫を指先に滴らせ、そっと舌に乗せる。
瞬間、視界が弾けた。
放課後の教室、夕立の匂い、そして隣を歩くあの人の体温。
甘酸っぱく、けれど胸の奥がキリリと痛む――完璧な再現度だった。
「……満足しました。でも、コレどうやって集めているんですか?」
私の問いに、店主は古びたスポイトを振ってみせた。本体は硝子で、指でつまんでいる部分がゴム製の。
「簡単ですよ。誰かが泣いたとき、その頬を伝う前に盗み取るんです。喜びも悲しみも、乾いて消えてしまう前にね」
店主の指が僅かに動いた。
私の頬を伝おうとした、今の「感情」が吸い取られたことに、私は気づいていなかった。
4/22/2026, 8:13:21 AM