イオリ

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お金より大事なもの

 どこまで歩いても同じ景色が続く道を、君は歩いたことがあるか。私はある。勘違いしないで欲しいが、今言った道は物理的な道ではなく、あくまでも心の中の道のことだ。

 難しい話ではない。水も食料もある。明日着替える服もある。だが、胸に大きな穴が空いている。底のない暗い穴だ。放っておいても生きていけるがそのうち、そのままでは生きている価値がないことに気づく。そういう意味の話だ。

 このままではいけない、そう思うだろう。何かで埋めなくては、と。さて、君なら何で埋める。愛かね、それとも思い出。シンプルにお金という選択肢もあるかもしれない。

 ちなみに私の胸の穴はもう埋まっているよ。何を詰め込んだかわかるか。

 宿命の対決だよ。山盛りの。ただの対決じゃない。宿命の対決だ。ただの対決なら、片足のエイハブは白鯨に立ち向かうことなどしなかっただろう。

 わかったか。わかったなら私の目を見ろ。君の前に立っているのは、そういう男なんだ。

 私は拾い上げた拳銃の銃口を、彼の額に押し付けた。震えが銃身から伝わってくる。

 さっさとやつの居場所を言え。それとも、君が私にとっての白鯨になるかね?

3/8/2024, 12:02:41 PM